JA埼玉みずほ

金融機関コード 4859

税務相談

質問

 今年2月10日に亡くなった父の遺産について、分割協議がまとまらず調停において話し合うことになりました。年末の12月10日が相続税の申告期限になりますが、遺産が未分割でも相続税の申告が必要ですか。現金預金も分けられないので相続財産を物納することができますか。

回答

相続のしくみ

 相続は人の死亡によって開始し、相続人は亡くなった人の財産や債務を当然に承継するので、相続人が二人以上いる場合は各相続人がこれを共有することになります。遺産分割はこの共有物を分割することで、遺産を個々の相続人に割り当てる作業なのです。 分割は相続人間の協議で
 まず、相続財産の中から誰が何を相続するかを相続人間で協議します。分け方が決まると遺産分割協議書に相続人全員が署名押印して不動産の登記や預貯金の名義変更などの手続を進めることができます。どうしても協議がまとまらないときは、家庭裁判所に調停か審判による分割を請求することになります。

相続税額の計算のしくみ

 まず、(1)相続又は遺贈によって各相続人が取得した財産の合計額から借入金や葬式費用を差し引いて正味財産を計算します。(2)正味財産から遺産に係る基礎控除額を控除した課税価格を各相続人が法定相続分で取得したものとした取得金額に相続税の税率を乗じて相続税の総額を計算します。(3)正味財産の額に占める各相続人の取得財産の割合を相続税の総額に乗じて各相続人の相続税額を算出します。(4)各相続人に割り当てられた相続税額に代襲相続人でない孫や兄弟姉妹などの二割加算をしたあと、贈与税額控除、配偶者に対する税額軽減、未成年者控除、障害者控除、相次相続控除、外国税額控除の順に税額の控除をして各相続人の申告納税額が確定します。このように相続税は遺産が分割されることを前提にしたしくみになっており軽減策が講じられているわけです。 遺産が未分割でも申告が必要
 話し合いがつかず、遺産が未分割のまま相続税の申告期限(相続の開始を知った日の翌日から10カ月以内)を迎えてしまった場合には、各相続人は法定相続分(代襲相続分、特別受益者の相続分を含む)で財産を取得したものとして相続税を申告納税しなければなりません。つまり、未分割であっても申告と納税の期限は延長されないということです。なお、死亡共済金や共済契約の権利、死亡退職金などのみなし相続財産もこの未分割の相続財産に含めて税額を計算することになります。 未分割では認められない特例
 遺産が未分割の場合は、相続開始の時から被相続人の財産を承継しているものの、個々にはまだ財産を分割取得していないので小規模宅地等の価額の特例(被相続人の居住の用に供していた宅地については240㎡まで、事業の用に供していたものは400㎡までそれぞれ80%の評価減が認められています)、配偶者の相続税額軽減の特例、相続税の納税猶予の特例はいずれも適用がありません。したがって、期限内に分割できた場合にくらべて申告納税額が大きくなり、配偶者も納税することになりますから留意してください。なお、「小規模宅地等の価額の特例」や「配偶 者の相続税額軽減の特例」については、申告期限までに「3年以内に分割見込みである旨」の届出をしておくと、遺産分割協議が整った時に適用を受けることができます。調停が長引き申告期限から三年以内に分割協議がまとまらない場合には、税務署長の承認を得てその期限をさらに延長することができます。

未分割財産の物納

 相続税は、まず金銭によって納付し、なお不足する部分は延納することができます。延納によっても金銭で納付することが困難な場合には、納付を困難とする金額を限度として物納することができます。なお、物納にあてることができる財産は、相続税の課税の対象になったものとされていますが、未分割財産については相続人の共有になっていますから物納を申請することができません。つまり、物納財産は国が換価して財政収入に充てることが目的ですから、係争中の物件は適さないものとされているからです。なお、相続人全員で納税に充てる財産を分割できれば、各持分の全部を物納することができます。申告期限後に分割等によって財産を取得できるようになったとしても改めて物納を申請することはできません。また、延納しているうちに金銭で納税することが困難になった場合には、申告期限から10年以内であれば困難とする金額の範囲内で物納を申請することができます。  

分割協議が整った場合の納税額の調整

 相続税の申告期限後において分割協議がまとまって、各相続人の課税価格に異動を生じた場合は、分割の日から四カ月以内に更正の請求をすることができます。法定相続分を超えて取得した相続人については税務署長による増額更正を受けるか、修正申告書を提出して納税することもできます。なお、この場合の更正の請求や修正申告は任意ですから相続人間の話し合いで全員が提出しなくても差し支えありません。したがって、加算税や延滞税はかかりません。