JA埼玉みずほ

金融機関コード 4859

税務相談

質問

 私は施設野菜を生産しながら、倉庫や共同住宅を中心に不動産の賃貸事業を経営しています。市街化区域内の農地が千五百坪ほど未利用のまま残っています。近所では会社を設立して相続対策をやっていると聞きますが、どんな仕組みで経営するのですか、法人にするとどんな効果が期待できますか。

回答

土地の保有コストは高い

 つい先ごろまでは、土地は財産そのものでした。何をしなくても固定資産税を上回る値上がり益が期待でき、いつでも高値で処分できたからです。土地を守るために貸家経営をやってきたはずなのに、地価の下落が続く今日では様子が一変しました。およそ時価の五割を課税標準とする固定資産税と都市計画税に加え、30年に一度の相続税によって土地は半減する勘定になります。つまり収益を生まない土地は財産ではないということです。

土地や建物は借りた方が得策

 住宅や商業施設は他人のものを借りた方が割安である場合が多く、これからは賃借志向が一層高まるものと思われます。市街化区域内の農地は町づくりの一環として地の利を生かした廉価で優良な賃貸物件づくりが求められることになるでしょう。

なぜ個人から会社にするのか

 個人が世代交代すると贈与税や相続税があるのに、法人(会社)には無いから確かな経営によって生成発展が可能なのです。家産を世代から世代へしっかり受け継ぐには必要な財産を法人に移して家を守ることも考えられます。相続対策とは相続に向かって家業と生活を整えていくことです。常に財産の持ち方、使い方、遺し方が一貫しており、持ち合わせの土地建物は地域社会に放出して貢献するという信念のもとに、賃貸事業をより専門的に企業化する必要があります。

どんな方式で経営すべきか

 賃貸事業の法人成りには、設立した会社に現在の賃貸契約の管理のみを委託する委託管理方式と現在の賃貸物件を会社に一括賃貸し会社はこれを賃借人に転貸する転貸方式が一般的です。委託管理方式も転貸方式も管理料や転貸利益(利ざや)はせいぜい20%程度とされており思い切った対策にならないのが現状です。さらに、個人の賃貸物件を会社に譲渡し会社は固有の財産として現在の賃借人へ賃貸する所有方式で、個人の土地の効用を最大限に引き出すためには適った方式であるといえます。いずれの方法にしても大切なことは、会社に不動産の賃貸管理を行う機能を充実させることです。

会社にするとどんな利益があるのか

 個人事業を会社にすると金庫は別になり、事業主と従事する家族は役員や従業員になりますから、家庭には給料以外の収入は入ってきません。目先のお金を生活費に遣うなどのいわゆる「どんぶり勘定」がなくなります。こまめな記帳と会計資料によって仕事の課題を発見し余計な支出を節約できるのが大きな成果です。

節税のしくみ

1.個人の土地の上に会社が賃貸物件を建てると、会社のために借地権が発生して思わぬ税負担になりますが、賃貸借契約において「土地を無償で返還する」旨を約定し、税務署へ届け出ると、権利金がなくても、地代が安くても、その土地は80%評価になり相続財産を引き下げる効果があります。

2.会社が受け取った家賃収入から必要経費を差し引いた利益は、従事した程度に応じて家族に給料を支給することで相続財産を増やさない効果があります。

3.個人では必要経費にならない事業主の給与や退職金でも、会社が支給する役員報酬や退任慰労金、弔慰金は会社の損金になったうえ、給与には給与所得控除、退職金には退職所得控除の適用があり課税所得が小さくなります。死亡退職金や弔慰金についても相続税の非課税財産として大きな節税効果が期待できます。

4.会社から支給される給与収入が103万円以下の場合には、個人事業の専従者給与と違って生計を一にする親族の控除対象配偶者や扶養親族に該当して所得控除を増やすことができます。

5.個人も青色申告では損失の繰越控除は3年間であるのに対して、会社の損失は7年間の繰越控除が認められており、大きな投資年の損失額を長期間で控除することができます。

6.被相続人が設立した会社は株価の安いうちに相続人に贈与するか、最初から相続人を株主とすれば、会社の業績を反映する株価の影響を受けないで済むことになります。

7.減税傾向にある法人税と増税傾向にある所得税の実効税率に着目すると地方税と震災復興増税を含めた両者の税率の差は10%以上になります。

同族会社の課題

 会社といっても多くは個人の延長線上にあります。経費を使いすぎて赤字になる事が多く、資金が不足すると個人の資金を安直に会社へ貸し付けてしまうものです。赤字が続けば返済の当てもなく累積し、価値のない財産(赤字会社への貸付金)に余計な相続税を納めることになりますから注意しましょう。

(西田税理士)