JA埼玉みずほ

金融機関コード 4859

税務相談

質問

 先月末に父が高齢にて他界しました。相続のことは話として聞いていましたが、我が家で相続が発生すると何をどうしたらよいか全く見当がつきません。死亡届をはじめ、国民健康保険と国民年金の異動手続きを終えたところです。相続人(配偶者、長男、二男、長女の4人)としてこれから何をどうすべきでしょうか。なお、父は10年前に公正証書にて遺言書を作成していました。それは、「全財産を長男に相続させる」としたものです。

回答

相続は法律そのしくみと税

 相続法では、相続は人の死亡によって開始するとして失踪宣告や認定死亡とともに相続の原因を明かにしています。さらに、被相続人の財産に属した一切の権利義務は相続人がこれを承継するとして、相続人全員が一旦は財産と債務を承継することを義務付けているのです。つまり、無主物にならないためです。したがって、相続人になりたくない場合は相続が始まってから3ケ月以内に、家庭裁判所へ行って相続を放棄することができます。また、相続人が2人以上の場合は相続財産は共有になり、各相続人の持分は法定相続分ということになります。この共有を解くことを共有物分割ならぬ遺産分割というわけです。税法では遺産分割において、各相続人が法定相続分によらず余分に貰っても、何も取得しなくても各相続人に対して贈与税や譲渡税がかかることはなく、取得した財産に応じて相続税を課税することにしているのです。

相続人の特定と財産目録の作成

 相続が始まったら、先ず戸籍を取って相続人を特定する必要があります。次に相続財産に関する資料を集めて財産目録を作成します。財産目録は相続開始時の財産と債務を記載したもので、各相続人の権利と義務を確定し、相続を放棄するか否かを判断するほか、相続税の総額を試算するための大切な資料です。被相続人は公正証書遺言を残していたようですから、遺言執行者は財産目録を作成して各相続人へ交付しなければなりません。

遺言の執行か分割協議か

 遺言執行者が遺言を執行(遺言執行者が不動産や預貯金の名義書換えなどの手続を行うこと)すると、他の相続人から遺留分を請求される場合があります。受遺者は遺留分を何で返還するかの準備します。遺言が執行されるまでは、相続人の合意によって遺産分割の協議を進めることができます。遺言が執行されると相続人は遺贈によって相続財産を取得したことになりますから、相続税の特例を受けることができます。なお、自筆による遺言書は裁判所の検認を受けてから執行することになります。

相続税は分割協議次第

 遺言書がない場合や遺産分割協議を優先する場合は、事業を承継すべき者と祭祀を主宰すべき者を決めて、各相続人にとって最もふさわしい財産を取得させるための原案を協議します。円満な話し合いが出来れば、相続税の負担が最も小さくなる節税への工夫も可能になります。ややもすると、相続は土地建物の登記や預貯金の名義書換が済めば終るものとして、いきなり遺言を執行したり、そのための協議書を作成して不動産の登記を優先しがちですが、名義を書き換えたり登記をしてからでは遺産分割の見直しも、有利不利を選択する余地もありません。不動産の相続登記は相続税の申告納税の見通しがついてから実行するようにして下さい。

相続人を特定する

 90年余の被相続人の歴史を精算する相続ですから、必要な相続情報を集めることが大切です。まず、被相続人の出生から死亡するまでの戸籍を市町村役場へ請求して、相続人が誰と誰なのかを特定します。家族が認識していなかった相続人の存在が明かになることもありますが、法務局や金融機関などの第三者へ示すお墨付きでもあるのです。

財産と債務を調べる

 つぎは、相続財産や債務を評価計算するための資料の収集です。被相続人が所有していた土地建物に係る固定資産税課税台帳の写しと評価証明書、土地建物の登記簿謄本、預貯金や有価証券の残高証明書、取引明細書、預貯金通帳、死亡共済金の支払明細書と共済契約に係る積立金の残高証明書。被相続人が財産を造成した経緯や借入金、貸付金の存在を知ることができる所得税の確定申告書、故人の手帳や日記帳、金銭出納帳、契約書類、減価償却費の計算明細書など。お葬式にかかった費用の請求明細書と領収書、支出メモ、香典帳などを用意して、財産と債務の残高を確定します。

被相続人の所得税、相続税の申告納税

 各相続人は相続の開始を知った日の翌日から4ケ月以内に、被相続人の所得税(今年の1月1日から死亡した日までの分)の準確定申告をしなければなりません。相続人全員が連署した申告書の付表を添付して提出することができます。また、相続開始後から年末までの遺産に係る所得は受遺者や分割取得者のものですが、遺産が未分割の場合は各相続人が法定相続分で所得したものとして、その所得を申告することになりますから留意して下さい。相続税の申告が必要な場合(小規模宅地の評価の特例を適用する前の総財産から債務を控除した正味財産が相続税の基礎控除額を超える場合)は、相続の開始を知った日の翌日から10ケ月以内に相続税を申告して納税することになっていますから、早目の対応が必要です。

専門家をさがす

 そうすると、相続人の調査、財産目録の作成、遺言か協議かの選択基準、準確定申告書の作成と申告納税、相続税の申告書の作成と納税計画等々、いずれの手続きも専門的な知識や技法が必要です。前述のように相続も税金も法律ですから、納税者が気付かないところに目が届く仕事を期待して専門家に依頼するのも得策かもしれません。相続の手順を心得て経営移譲や事業承継に詳しく、財産評価に長けた経験豊富な専門家の力を借りる必要があります。相続はパートナー次第と言われる由縁です。