質問
父はかねてから家族へ計画的な生前贈与を進めていました。今年9月30日には、(1)自らの居宅とその敷地の一部を母に贈与したので、来年3月15日までに贈与税の申告書を提出して配偶者への居住用財産の贈与の特例(2000万円まで非課税)を受けることにしていました。ところが父は10月10日に急逝したのです。父はこのほかにも子や孫たちに贈与をしていました。(2)私は昨年の秋に農地の生前一括贈与(贈与税の納税猶予を選択)を受け営農に勤しんでいます。(3)弟は3年前に賃貸用の倉庫を相続時精算課税によって贈与を受けています。(4)姉は平成27年の11月に居宅を新築するにあたり、住宅取得資金の贈与を受け適法に申告しています。(5)2年前には孫達全員(4人)に各500万円の教育資金の一括贈与をしています。さらに、(6)父は母と子ども3人の相続人に各110万円の現金を昨年と今年の2回贈与しています。これらの生前贈与は父の相続においてどんな影響が考えられますか。この相続で各相続人は何んらかの財産を取得することにしています。
回答
贈与税と相続税の関係
生前贈与は相続税の軽減や相続人の自立を目指して一家団内で行われるものだけに、相続が始まる間際の贈与は相続財産減らしを意図したものが多く、相続開始前3年以内に集中する傾向にあります。そこで、贈与税は基礎控除を相続税より小さく、税率は相続税より高く、相続や遺贈によって財産を取得した相続人が相続開始前3年内に贈与を受けた財産は相続財産に加算することにしています。つまり、相続税の課税を容易に回避できないしくみなのです。
生前贈与の効果
ところが、誰もが長生きできる時代を迎え、相続財産が高齢者に偏っているとして、親の財産を子や孫たちへもっと移転して消費を拡大する政策が講じられたのです。一定額まで非課税で贈与できる住宅取得資金の贈与、婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用財産の贈与における二千万円の配偶者控除、二千五百万円の特別控除と20%の定率課税で贈与できる相続時精算課税制度、農地の生前一括贈与における贈与税の納税猶予制度、非上場株式等の贈与税の特例納税猶予制度、子や孫への教育資金の一括贈与、結婚・子育て資金の一括贈与など、高齢社会を反映した目的のある贈与を奨励しています。非課税・配偶者控除・特別控除・定率課税・納税猶予・納税免除など節税効果も大きく相続対策として欠かせない手段といえます。
生前贈与が相続税に及ぼす影響
(1)配偶者へ贈与された居住用財産は特定贈与財産として相続開始年のものであっても相続開始前3年以内の贈与であっても、相続税の課税価格には加算されません。配偶者は贈与税の配偶者控除の適用を受けるために来年の3月15日までに一定の書類を添付して贈与税の申告書を提出しなければなりません。この贈与によって生前贈与した分だけ相続財産を減らしたことになります。
(2)農地の贈与税の納税猶予の特例を受けた農地については、贈与された農地を相続開始時の価額で相続財産に加算して相続税額を計算します。この場合、改めて農地の相続税の納税猶予の適用を受けることができますから、営農を続ける限り農地に対する相続税は納税を猶予されることになります。
(3)の相続時精算課税制度によって贈与を受けた倉庫については、贈与を受けた時の価額を相続財産に加算して算出した相続税額から、贈与時に納付した贈与税額を控除し、控除しきれない部分は還付を受けることができます。この場合のメリットは贈与時から相続開始時までの家賃収入が相続人へ帰属することで、相続財産をふやさない効果があることです。
(4)の住宅取得資金として姉が贈与を受けた金銭は、相続開始前3年以内のものであっても非課税財産ですから、相続財産に加算する必要はありません。この贈与によって、子どもの独立と相続財産を減らす効果がありました。
(5)贈与によって教育資金口座へ預けられた貯金は、受贈者が30歳になるまでは相続開始時に使い残しがあっても、相続税が課税されることはありません。3年以内の贈与加算の必要がなく、子や孫達の教育の保障と相続財産を減らす効果がありました。
(6)父の財産を相続した各相続人は、昨年贈与された現金110万円と今年受けた110万円を相続財産として相続税の課税価格に加算する必要があります。つまり相続開始前3年以内の贈与は、相続財産を取得した相続人にとって節税効果は無かったと云えます。