質問
夫が他界し遺産を整理していたところ、家族名義の定期貯金証書が出てきました。妻である私名義のものが6千万円、長男名義のものが5千万円、二人の孫(大学生)の名義がそれぞれ3千万円でした。夫が、10年前に公共事業のための土地の譲渡で手にした資金が源資と思われますが定かではありません。これらの貯金の存在は夫から知らされていましたが、夫が全て管理していたので詳細はわかりません。相続人の名義ですから相続財産に載せなくても差し支えありませんか。それとも相続財産とすべきでしょうか。
回答
名義預貯金とは
子どもたちに預貯金を遺してやりたいが本人に手渡すと浪費してしまうのではないか。勤労意欲を削いでしまうのではないか。被相続人の名義のままだと重い相続税がかかるから減らしておきたい。などとして本来の所有者でない家族の名義で預入れ、源資の所有者が管理し続ける預貯金のことです。ただし、源資の所有者から名義人へ正しく贈与されたものであれば、実質的に受贈者の預貯金ですから名義預貯金ではありません。
名義預貯金は誰のもの
家族名義の預貯金であっても、名義人の収入、保有資産の状況などからその源資が名義人のものであることが明かなものは名義人の固有の財産ですから、その帰属を争う余地はありません。被相続人が自己の資金を家族名義で預入れ、利息の受取りや満期の書換などの管理をして、通帳・証書を印鑑とともに手許にしてきたものは、単に名義を借りた預貯金に過ぎず被相続人の財産そのものです。
相続財産に計上すべきか否か
ご質問のとおり、家族名義で預け入れた貯金の存在を知らされるも、名義人に贈与を受けた認識がなく、被相続人が自己の財産だとして管理し続けたものであれば単なる名義貯金ですから相続財産に計上すべきものと考えます。念のため、そもそも名義貯金の源資は土地代金だけなのか。預け入れの時期はいつごろだったのか。どんな管理をしてきたのか。利息はどうしていたのか、名義人との贈与契約はなかったのか。なぜ各名義人の証書の額面が均等でなかったのか。遺言書に名義貯金の帰属などを裏打ちしていないか。など丁寧に調べて名義貯金(相続財産)なのか、贈与財産なのかを特定する必要があります。
名義貯金の性格を特定するには
名義貯金の源資が名義人の譲渡収入や臨時収入によるものなのか。親族等から相続財産を取得したのか。永年の事業収入や給与・退職金・年金等の収入の蓄えなのか。永年の贈与によるものか。配偶者や子どもたちの固有の預貯金なのか。預け入れの時期が土地を譲渡した年で、しかも土地代金が決済された月のものか。貯金の存在を知りつつも自分の財産だとの認識がなかったのはなぜか。夫から家族に贈与をするとの話があったのか。あったとすれば、なぜ受贈者が手元で管理しなかったのか。なぜ贈与税の申告に至らなかったのか。など名義貯金の源資、家族名義貯金の動機と経緯をもとに、名義貯金が名義人固有の財産なのか、被相続人の相続財産なのかを仕分けします。
名義貯金の取扱と申告は
家族名義貯金は名義人固有のものを除き被相続人の遺産ですから、相続人による遺産分割協議を経て各相続人がこれを取得することになります。生前に「上げます」「頂きます」とする贈与契約によって貯金を受贈した者は、翌年3月15日までに贈与税を申告納税しなければなりません。ところで、相続又は遺贈(遺言など)によって遺産を取得した者は、相続開始前3年以内の贈与財産を相続財産に加算する必要がありますから、贈与を受けた名義貯金については期限後であっても、必ず申告納税を済ませる必要があります。なお、贈与を受けるも、贈与税の申告期限から6年を経過すると贈与税の申告納税が不要になる場合がありますが、時効を主張するに足りる証拠を用意しておく必要がありますから留意して下さい。
生前贈与の工夫
名義貯金は、文字通り他人の名義にした相続財産ですから、相続対策としての効果は期待できません。毎年110万円まで無税で贈与できるもの、配偶者への居住用財産の贈与、子や孫たちへの教育資金の一括贈与、父母や祖父母から子や孫への住宅取得資金の贈与、結婚子育て資金の贈与、障害者扶養信託契約による年金の受給権の贈与などの特例は、無税で贈与できるだけでなく家族の生涯設計を実現すべきものですから、名義預貯金に優先して実行したいものです。
名義預貯金の見直し
相続税における名義貯金は、生前払戻金とともに公平課税の見地から税務調査の必須項目になっています。納税者は相続が始まると「相続人固有の貯金である」と主張するも、贈与の実体もなく、生前においてその存在を知らされていない場合が多いことから、相続財産として修正申告を求められる場合がありますから留意して下さい。