JA埼玉みずほ

金融機関コード 4859

税務相談

質問

 相続対策のセミナーで必ず取り上げられるのが遺言と養子縁組ですが、遺言書があると相続人間で何かと不都合があるのではないかと不安になり書くことをためらっています。
遺言書によって相続税の負担はどう変わりますか。

回答

遺言は確かな相続の手段に

 遺言はこの世にいない人の意思を実現させるものとして、相続争いを防ぐ有効な手段になっています。他人の相続の争いを見るにつけ必要性を痛感するも自ら進んで書けないものです。相続税においても遺言のあるなし、遺言の内容、受遺者を誰にするかによって納付税額は変ってしまいます。遺産分割協議が整わなくても遺言書があれば相続税の申告期限までに相続手続を進められ、相続税を完納することができるのです。他の相続人から遺留分を請求されることがありますが、確かな相続の手段として遺言書の検認の申立も増えているようです

申告納税のきまり

 各相続人が相続または遺贈(相続時精算課税の適用を受けた贈与財産を含む)によって取得した財産の合計額が相続税の基礎控除額を超え、かつ相続税額があるときは、その相続の開始を知った日の翌日から10ケ月以内に相続税の申告書を提出して納税しなければなりません。したがって、相続税の申告期限までに遺産分割が成立しない未分割の状態でも、各相続人が相続財産を法定相続分で取得したものとして計算した相続税額を申告納付する必要があります。未分割ですから誰が何をもらうか決まっていないので、被相続人の居宅を取得した場合の評価減、配偶者が法定相続分まで又は一億六千万円まで取得した財産には相続税額を軽減する特例、農地の相続税の納税猶予、相続税の物納申請などができません。相続財産以外の担保を用意できなければ相続税を延納することもできません。

未分割での申告の後の修正申告等

 未分割で相続税の申告書を提出した後、遺産分割が成立したことによって新たに納税義務が発生した人は期限後申告書を、実際に取得した財産が法定相続分に満たない人は更正の請求を、超える人は修正申告書を提出することができます。

遺言書があるとどうなるか

 遺言によって全ての財産を遺贈された場合は、相続人による遺産分割協議を経なくても、相続税の各種特例を適用させて申告納税することができます。ただし、遺言者より受遺者の方が先に死亡したとき、遺言された財産の一部又は全部を受けないとする放棄があったとき、死亡した受遺者が受けるべき財産や遺贈を放棄された財産は未分割財産ですから改めて遺産分割協議が必要になります。そこで、遺言書には「受遺者が遺言者より先に死亡したときは○○○○に相続させる」と次の順位を指定しておくことをお勧めします。

遺留分を請求されることも

 なお、遺言によって何も貰わなかった相続人、遺贈によって取得した財産の額がその相続人の遺留分(配偶者と子の場合は法定相続分の二分の一、親が相続人になる場合は法定相続分の三分の一)に満たないときは、遺留分以上に財産をもらった人から遺留分に満たない部分を取り戻すための遺留分の減殺を請求することができます。

遺留分の減殺請求にもとづく修正申告等

 すでに遺言書にもとづいて申告納税した受遺者が、遺留分の減殺請求によって財産を返還した場合は、納付した相続税額の還付を受けるための更正の請求を、遺留分の減殺請求によって財産を取り戻した相続人は相続税の修正申告書や期限後申告書を提出することができます。
なお、遺留分の請求者と遺留分の返還義務者の話合いで、これらの請求や申告をしないこともできます

遺言で相続人を排除した場合は

 遺留分を有する相続人が被相続人を虐待したり重大な侮辱をしたとき、著しい非行があったときは、被相続人は遺言でその相続人を排除することができます。遺言執行者は遺言にもとづいて家庭裁判所に相続人排除の請求することができます。家庭裁判所の審判によって排除された相続人は相続権を失いますが、排除された相続人の代襲相続人が代わって相続人になります。そうすると、法定相続人の数が増え相続税の総額が小さくなることがあります。

遺言で子を認知した場合

 遺言によって子を認知する旨の遺言があった場合は、遺言執行者は遺言書の謄本を添えて認知の届出をしなければなりません。届出によって子は相続人になり法定相続人の数が増えることから相続税の総額は小さくなります。

結婚したら土地を取得させる遺言

 例えば、孫に対して「将来結婚したらA土地を遺贈する」という停止条件付の遺言があった場合。その孫が相続税の申告期限までに結婚できなかったときは、A土地は未分割財産になり、各相続人が法定相続分でこれを取得したものとして申告納税することになります。やがて孫が結婚という条件を成就した日(相続の開始を知った日になります)の翌日から10ケ月以内に相続税の申告書が必要になります。孫が相続財産を取得した場合の相続税額は20%増しになりますから留意して下さい。