JA埼玉みずほ

金融機関コード 4859

税務相談

質問

 10年前に父の相続で受け継いだ農地について相続税の納税猶予の特例を受けています。70才になったので息子に経営を移譲しょうと思っていますが、勤めの関係で引き受けてくれそうにありません。私が農業を続けられなくなったとき特例を受けた農地を息子に贈与することができますか。また、農地を他人に貸した場合、農地を譲渡した場合、農業をやめた場合は納税猶予はどうなりますか。

回答

農家の相続は難しくなってきた

 均分相続になって70年になりました。農村社会では何事も家を中心に営まれてきただけに親の相続に対する権利と義務をめぐる争いが後をたちません。遺産を親子4人で相続すると跡取りといえども相続分は6分の1ですから、各相続人の協力が得られなければ遺産の大半を占める農業用財産をすべて相続することはできないのです。生前に贈与したり、遺言書を作成しておいたとしても他の相続人から遺留分(法定相続分の半分)の減殺を請求されると効果は半減してしまうのです。

農地の納税猶予制度は

 相続によって農地が分散しないようにと、経営移譲のために農地の贈与を受けたり相続によって農地を取得した人の税負担を軽減しようと農地の納税猶予制度が設けられています。農地を生前に一括贈与した場合でも、農地の価額に対応する贈与税の納税は猶予され、農業相続人が農地を相続しても時価額をもとにして計算した相続税の総額と農業投資価額(千㎡当たり田は90万円、畑は79万円)で計算した相続税の総額との差額が猶予されるしくみです。この制度は営農を継続することが要件になっていますから、農業をやめたり、特例を受けた農地を人に貸したり、譲渡すると納税猶予期限は一部又は全部が確定し、猶予された税額とそれまでの期間の利子税を納めなければなりません。収用交換等によって国などへ譲渡した場合は本税を納付することで利子税もかかりません。

相続税の納税猶予は終身営農に

 平成21 年12月15日に農地法が大改正されました。同日以後に開始した相続から農地の相続税の納税猶予は終身(特定市以外の市街化区域内の農地は20 年)営農になりました。家族労働とはいえ農業相続人が身体障害の一級または二級に、精神障害の一級、要介護5の認定を受けるなど営農を継続できないことも想定されます。そこで、調整区域内の農地の場合は、農地中間管理事業などへの「特定貸付」を行うことで納税猶予を継続することができます。この特定貸付ができない場合に限って一般的な権利設定による「営農困難時貸付」を行うことができます。これらの貸付を行ったときは2ケ月以内に税務署長に対して一定の届出書を提出して納税猶予を継続することができます。

経営移譲は農地の生前贈与で

 相続税の納税猶予を受けている場合は、ご質問のように特例の農地のすべてを生前に一括贈与することができます。この場合は猶予されている相続税は免除され、一括贈与に係る贈与税は贈与者の死亡または受贈者の死亡の日まで納税を猶予されることになります。生前一括贈与を受ける農業後継者は3年以上農業に従事した18才以上の推定相続人であること、引き続き農業経営を続けられること、認定農業者であることが要件になります。したがって、息子さんに経営を移譲しようとする場合は、今から計画的に農業への従事を進めていく必要があります。さて、贈与者が死亡したときは贈与された農地は相続財産とみなされ相続税が課税されることから、農業相続人の選択により相続税の納税猶予の特例を受けることができます。このように営農を継続するかぎり家産としての農地を世代から世代へと受け継ぐことができるのでこの制度は営農に勤しめる格好の手段といえます。

農家の相続対策について

 親子の話し合いの場を設けて各相続人の権利と義務を明確にし話合いの結果を遺言書にしておきます。家の祭祀と家業を子に承継させるためには子の生計が成り立つ経営であることが望まれます。親は家族の生活設計に合わせた事業規模を確保するとか、効率経営をめざすための農業の法人成りなど、後継者を迎え入れる体制づくりを進めていかなければなりません。

相続の時に心がけたいもの

 相続は遅れてよいことはありません。限られた条件の中で最大限の効果を上げるためには早め早めの行動が必要なのですが、相続が始まったらいきなり不動産登記や預貯金の名義を変えないことが大切です。まず財産目録を作ることから始めます。財産額をもとにした相続税額と納税方法、各相続人が取得すべき財産、納税猶予を受けた場合の納税額、配偶者の老後の生活等々を熟慮することが必要です。登記を先行すると事後の相続対策も限られたものになり、登記後に取得者を変更すると贈与税が課税されることにもなりますから留意しましょう。

西田税理士