質問
子ども達三人はそれぞれ独立して親の近くに住み、一人暮らしの父親の面倒を看てきましたが天寿を全うしました。親子で生前協議を開いたとき父から実家は祭祀とともに屋敷内に住む長男が継ぐこと、居宅の敷地は広すぎるので旧家を取り壊して譲渡したうえ貸家を作るように言われました。土地の譲渡は相続後のほうが有利だと言われていますので父の居宅の敷地を譲渡しようと考えています。土地を譲渡する場合に何か留意すべきことがありますか。
回答
譲渡税は値上り益に対する税金
土地を売ると必ず税金がかかるというものではありません。譲渡税は値上り益に対するものですが、その土地の所有期間、売り主の利用状況、買い手の利用目的、売る時期によって特別控除や税率の特例、買換え、交換などの特例によって税負担を大きく軽減することができます。500万円で買った土地が1,000万円で売れたとき、その差額500万円が値上り益です。売却する土地をいくらで買ったか分からないときは売値の5%を買値とみなして値上り益を計算することができます。その値上がり益を実現するための実測費用や仲介手数料、契約書の印紙代などの譲渡費用を控除した金額が譲渡益になります。特別控除の適用のない土地の譲渡では譲渡益がそのまま課税の対象になり、申告の際は他の所得と分離して長期譲渡の場合、20%(所得税15%、住民税5%)の税金を算出し、総合課税の所得税額との合計額から税額控除や源泉徴収税額、予定納税額を控除して納税額を確定することになります。
相続財産を譲渡した場合の特例
相続によって取得した土地は相続後に譲渡することが得策とされていました。
相続又は遺贈によって取得した土地を相続開始の日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年以内に譲渡したときは、相続によって取得したすべての土地に対応する相続税の全額(譲渡益が限度)をその土地の取得費(実際の取得費または譲渡代金の5%相当額)に加算して譲渡所得を計算することができました。ところが、平成27年1月1日以後の相続からは土地に対応する相続税額のうち売った土地に対応する部分のみ取得費に加算することになり、相続後の土地譲渡の有利性が薄れてしまいました。これからは地価の上昇がないかぎり、固定資産税・都市計画税の負担を考えると生前に売った方が有利な場合もありますから、必ず譲渡手取額を試算しながらいつ売るべきかを判断しなければなりません。
居住用財産を譲渡した場合の特例
現に自己の居住の用に供している居宅とともにその敷地を居住の用に供しなくなった日から3年を経過する日の年の12月31日までの間に居住者ご自身がお売りになったときは、譲渡益から3,000万円の特別控除の適用を受けることができます。
さらに、譲渡した居住用財産の所有期間(相続によって取得したものは被相続人の所有期間を引き継ぎます)が10年を超えている場合は軽減税率(譲渡所得のうち6,000万円以下の部分は所得税10%、住民税4%)が適用されますから生前譲渡でも有利な取り扱いになっています。
空家の敷地を譲渡した場合の特例
平成25年1月2日以降の相続又は遺贈によって被相続人が住んでいた居宅及びその敷地を相続人が取得して、これを相続が開始した日から3年を経過する年の12月31日までに(平成28年4月1日から平成31年12月31日までの間に譲渡することが必要です)譲渡した場合には居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例を受けることができます。この特例を受けるためには、「譲渡した被相続人の居宅及びその敷地は相続の時から譲渡の時までの間に事業の用、貸付の用、居住の用に供していなかったこと」、「相続の時に一人住まいであったこと」、「譲渡代金は1億円以内であること」、「居宅を取り壊さないで譲渡する場合の建物は一定の耐震基準(昭和56年5月31日以前に建てられたものは耐震改修されたものであること)を満たすものであること」。が必要で、これらの要件を確認した旨の市町村長の書類を確定申告書に添付することになっています。この特例は、相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例と選択適用となりますから留意してください。
居宅敷地を売って貸家を買換えること
空家の譲渡の特例を受けた場合は、居住の用に供していた土地建物を売って事業用の建物等に買換えするなどの税制上の特例はありません。したがって、空家の譲渡の特例を受けて申告納税した後、その資金で改めて貸家を取得することになりますから留意してください。