質問
家族労働によって水稲と野菜を栽培するかたわら、倉庫と店舗を賃貸する青色申告者です。息子が8月から就農したので父母や妻にも専従者給与を支給しようと考えています。農業所得や不動産所得を計算するうえでどのような点に留意したらよいでしょうか。
回答
生計を一にする親族間のやりとり
所得税では『生計を一にする親族間で賃料などの受け払いがあっても、事業等の必要経費にならないが受けた人の所得にもしない』としています。ただし、青色申告者が専従者に支払った給与については、税務署長へ届出をした金額の範囲内で労務の対価として適正な額であれば必要経費とする特例が設けられています。
相続時の寄与分の先取り
親子が一つの財布のもとで家業に勤しんでも、将来発生する相続において寄与分を認めてもらうことは極めて難しいので、家業に専従する労働の対価は正しく評価してあげたいものです。親族に給与を支給することによって所得を分散し、遺留分を請求されない固有の財産を持つことができるからです。
青色事業専従者になれる人
青色事業専従者になれるのは、青色申告者と生計を一にする配偶者やその他の親族(父母、子、孫など)であること。その年の12月31日現在で年齢が15才以上であること。その年を通じて6ケ月をこえて青色申告者の事業に従事していること。年の中途で開業または廃業・結婚・病気をした場合には、従事できると認められる期間を通じてその2分の1を超えて従事できる人です。よって、息子さんは8月に就農しても青色事業専従者になることができます。
青色事業専従者給与に関する届出
青色事業専従者給与の必要経費算入の特例を受けようとする場合は、その年3月15日まで(その年1月16日以後に開業したり専従者がいることとなった場合は、その日から2月以内)に専従者の氏名、仕事の内容、給与の金額、支給時期など を記載した青色事業専従者給与に関する届出書を所轄税務署長に提出しなければ なりません。
農業のほか不動産の事業にも従事する場合
青色事業専従者が農業所得と不動産所得の両方の事業に従事している場合は、専従者給与をそれぞれの事業に従事した分量に応じて配分するか、均分に従事したものとみなして配分することができます。
老齢の父母は専従者になれないか
専従者給与については、仕事の内容を考慮して労務の対価としてふさわしい金額を届け出て支給するわけですから、農作業の内容に応じ一般の人と変わらない能力を有し、支障なく仕事をこなしている場合には、年齢に関係なく青色事業専従者になることができます。
必要経費にしないことができるか
専従者の勤務状況や事業規模等に照らし適正な労務の対価として支給した給与を、決算において必要経費に算入しないとして自己否認することはできません。
事業主の所得を上まわる専従者給与
売上げが減少し、事業主の所得が専従者給与の額を下まわったとしても支払った給与の額が労務の対価として適正なものである限り、農業所得や不動産所得の 金額の計算上必要経費に算入することは差しつかえありません。
届出以上の給与を出せるか
青色事業専従者の給与は届出書に記載されている方法に従い、記載されている金額の範囲内において実際に支払った給与の額が必要経費に算入されるわけですから、届出書に記載された金額以上の額を必要経費に算入することはできません。
ただし、労務の対価として相当と認められる金額の範囲内であれば、遅滞なく変更届を提出することによって変更前より多く支払うことができます。
専従者に退職金を支給できるか
専従者給与は届出書に記載されている範囲内で、事業に従事している間に支払いを受けるべきものに限られることから、青色事業専従者の退職後に支払う退職手当や退職年金を必要経費に算入することはできません。
専従者給与と配偶者控除、扶養控除
青色事業専従者として給与の支給を受けている配偶者やその他の親族は、その 給与の額が103万円以下であっても配偶者控除や扶養控除を受けられないことになっていますから留意してください。
事業主を扶養親族にすることができるか
専従者給与を支払ったあと、事業主のその年の合計所得金額が38万円以下であれば、事業主を青色事業専従者の扶養親族にすることができます。
未払の専従者給与
未払の専従者給与は原則として必要経費になりません。資金繰りの関係でたまたま支給期に支払ができなかったとか、未払になったことに相当の理由があり短期日のうちに支払われるようなものであれば必要経費に算入することができます。
したがって、長期間未払い給与が累積されているとか、未払いのまま相当期間放置され現実に支払の事実が無いと認められるような場合には必要経費に算入することができません。
事業専従者が他に仕事を持っている場合
専従者給与は、その事業に専ら従事する親族に支払うものですから、他の仕事に従事する者を事業専従者とすることはできず、支払った給与を必要経費に算入することはできません。ただし、他の仕事に従事する期間が極く短いなど青色申告者の事業に専ら従事することが妨げられないと認められる場合は、事業専従者に該当することになります。
通勤手当を支給する場合
遠隔地にある仕事場へ通勤するために要する費用については、交通費・所要時間・距離等からみて経済的かつ合理的と認められる金額を必要経費に算入することができます。青色事業専従者給与に関する届出書には、この通勤手当を労務の対価として専従者給与の額に含めて記載する必要がありますが、専従者の給与所得の金額を計算するときは非課税とされる通勤手当を差し引いて計算します。
以上のとおり、さまざまな制約がありますが、相続対策や節税をはかれるのが大きなメリットといえます。