質問
私はガラス温室でイチゴを栽培するほかアパート3棟(24世帯)を賃貸しています。このほどメーカーから温室とアパートそれに居宅へ太陽光発電装置を設置して余剰電力を電力会社へ売電する企画が提案されました。実行した場合に補助金や売電収入による所得はどのように計算するのですか。借入金で設置しても採算が取れ元手を回収できるでしょうか。居宅は今年新築しますが、太陽光発電装置は住宅ローン控除の対象になりますか。相続税を計算する場合この装置は建物と一体で評価するのですか、それとも建物と機械装置に分けて評価するのですか。
回答
暮らしを支えるエネルギーの柱に
エネルギーは食料とともにその多くを海外に依存しており、自給率を上げることが喫緊の課題となっています。安全で環境に優しいクリーンエネルギーとしての太陽光発電装置の導入と普及拡大策には、設置者に補助金を出すほか発電した全量又は余剰電力を十年間一定の単価で買い取る固定価格買取制度などが講じられているところです。
売電収入の所得の計算
温室で発生した余剰電力は農業に付随した収入として農業所得とされ、居宅の屋根に太陽光発電装置を付け余剰電力を売電して得た所得は雑所得になります。アパートでの余剰電力の売電収入は不動産所得になりますが、アパートで発電した電力を使用しないで全量を売電したときの所得は不動産所得との関連性がないので事業として行われている場合を除き雑所得とされます。いずれの所得も売電による収入金額から必要経費を差し引いた所得金額が課税の対象になります。なお、農業所得や不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額は他の所得と通算(埋め合わせ)することができますが雑所得の損失は通算できません。また、給与所得者で他に所得がなく売電による所得が20万円以下であれば確定申告の必要はありません。
必要経費の計算
売電に係る必要経費は太陽光発電装置の減価償却費と借入金の利子、償却資産としての固定資産税、損害保険料、修繕費など売電収入を得るために直接要した費用です。居宅の売電に係る必要経費は家庭用の電力量と売電用の電力量の割合で按分して計算することになります。
償却資産として固定資産税が
10kw以上の太陽光発電装置を家屋の屋根などに取り付けて発電量の全部または一部を売電する場合は、発電するための事業用償却資産として未償却部分に固定資産税が課税されますから、これも必要経費に加えます。
元手の回収計算
太陽光発電装置の設置に要した金額は耐用年数を17年として償却します。売電収入に対応する部分が減価償却費として必要経費になりますが、青色申告者は太陽光発電設備等を取得して1年以内に事業の用に供した場合など一定の要件のもとに取得価額の30%の特別償却か7%の税額控除を選択することができます。なお、リース取引によって導入する場合は税額控除のみ適用があります。投資した取得資金を現金で回収するしくみが減価償却ですから、年々の償却後の所得がマイナスにならなければ元手を回収できたことになるわけです。
即時償却できる場合
農業を営む青色申告者が温室に太陽光発電装置を設置した場合は通常の減価償却にかえて即時償却(設置した年に全額必要経費に算入)することができます。貸家経営についてはたとえ事業的規模で行われていたとしても不動産の貸付ですから適用がありません。どの方法を選択するかは全期間(17年)の税負担の総額を比較しながら判断することになります。なお、太陽光発電装置を導入するための補助金を取得している場合はこれらの特例を選択することはできません。
ローン控除の取得対価に
住宅借入金等の特別控除額は年末における借入金残高のうち居住用家屋の取得対価等の額の1%相当額になります。家屋と一体で取得した太陽光発電装置は建物を構成する電気設備として家屋の取得対価等に含まれるものとして取り扱われています。なお、受取った補助金はローン控除額の計算上取得対価等の額から控除しますので留意して下さい。
相続財産としての評価額
相続財産としての建物は固定資産税評価額で評価することから借金をして貸家を作ると節税が期待できるわけです。太陽光発電装置は建物とは別個の「機械装置」として相続開始時における未償却残高が相続財産になります。借入金残高との大きな差がなく節税を期待できません。
採算がとれて元手が回収できれば
発電したすべての電力を売電価格に換算した金額から必要経費の総額を控除した発電利益が総投資額の2%以上になれば、家計費と事業経費を節約したうえで投資価値もあり元手も回収できれば導入の利益ありといえます。ところで、太陽光による発電は季節や天候、日照時間の影響を受けることから必ずしも計画どおりにいかないことも想定しなければなりません。さらに、余剰電力の買取制度によって電力会社の送電線に逆流した電気はやがて利用者が負担する電力になることから公共料金そのものです。大きな利益は期待できなくとも温暖化対策や省エネへの自助努力の成果を期待したいものです。