質問
平成25年度の税制改正で相続税と贈与税はどのように変わるのでしょうか、今までの相続対策の考え方を変える必要がありますか。
回答
相続税の基礎控除の引き下げ
相続税の基礎控除はバブル期の平成4年と平成6年に引き上げられて以来地価が大幅に下落した今日まで据え置かれてきました。このため相続税の納税者が一部の資産家に限定されることから、富の再配分機能を取り戻そうと平成27年1月1日以降に始まる相続から基礎控除が現行の60%(定額控除を3千万円に、比例控除を法定相続人一人あたり6百万円)に引き下げられます。
最高税率の引き上げ
課税価格に応じた適用税率の刻みを6段階から8段階に分けるとともに、最高税率を50%から55%に引き上げました。基礎控除の引き下げと税率引き上げによって相続税の負担が大きく増えることになります。配偶者と子ども3人で相続した場合、正味財産が九千万円までは無税であったのに、改正後は配偶者が半分相続した場合でも245万円の納税が必要になってきます。ちなみに、この相続人で財産が2億円あると今より405万円、3億円で540万円、5億円で687万円、10億円になると1,060万円、15億円の場合は1,675万円の増税になる見込みです。
小規模宅地の評価減の面積拡大
このような課税強化の影響をやわらげるために、被相続人が住んでいた居宅の敷地や事業用(貸付を除く)の建物の敷地について減額の特例が見直されました。居宅の敷地は330㎡(現行240㎡)まで、事業用地は400㎡(現行どおり)まで、居宅と事業用の併用の場合は最大で730㎡まで拡大され、それぞれ80%が減額されます。なお、外階段など完全に仕切られた二世帯住宅、被相続人が介護を受けるために老人ホームに入居していた場合でも一定の要件に該当する場合は平成26年1月1日以後の相続から評価減の対象になります。
未成年者・障害者控除の引き上げ
税額控除のうち、相続人が未成年者である場合は20才になるまでの一年につき10万円(現行6万円)に、相続人が障害者に該当する場合は85才になるまでの一年につき6万円から10万円(特別障害者は20万円)に引き上げられます。
贈与税税率の緩和
親が96才の長命ならば、子は70 才で、孫は40才代になり親の財産を子が相続すると孫には届かないことになります。親の財産を生前に子や孫へ移転させ有効活用を促すためには贈与税の壁を低くする必要があるとして、一般の贈与に対する税率のほか父母又は祖父母から子や孫が贈与を受けた場合の特別の税率(5%から10%軽減)が設けられました。しかも、課税価格に応じた税率の刻みを6段階から8段階に分け、一般の贈与の場合は3000万円超の部分について最高税率55%を、子や孫に対する贈与については4500万円超の部分とする優遇策が講じられました。
相続時精算課税の贈与者・受贈者の年齢
2500万円まで贈与税がかからない相続時精算課税制度による贈与についても、贈与者の年齢を60才以上(現行は65才以上)に引き下げたうえ、受贈者の範囲に20才以上の孫(現行20才以上の子)を加えました。
教育資金の一括贈与の非課税
平成25年4月1日から平成27年12月31日までの間に父母又は祖父母などが30才未満の子や孫の教育資金にあてるため金融機関に金銭等を一括信託等をした場合には、受贈者一人当たり1500万円まで贈与税を非課税とし受贈者が30才になった時に、使い残した金銭と学校等以外に支出した金額のうち500万円を超える部分について贈与税を課税するというものです。途中で受贈者が死亡した場合の使い残し部分には贈与税をかけないとしています。3年以内の贈与加算はありません。
相続税対策と相続対策の考え方
今回の改正により増税が予想されるとして相続税対策が流布されていますが、節税を優先し対策に目的がなければ相続を難しくしたり余計に税金を納めることになりかねません。税法には仕事や生活を改善し、自助努力を奨励するしくみが盛り込まれています。たとえば、配偶者への居住用財産の贈与の特例、子や孫への住宅資金の贈与の特例、特別障害者の扶養信託受益権の非課税、祭祀財産の非課税、一定の死亡保険金・死亡退職金の非課税、扶養義務者間における生活費・教育費の非課税、教育資金の一括贈与の特例、小規模宅地等の評価減の特例、養子縁組と法定相続人の数え方など。費用が少なく理に適った相続対策を進めながら十分な節税も可能なのです。