JA埼玉みずほ

金融機関コード 4859

税務相談

質問

 私は、四千平方メートルの温室でトマトを栽培するほか水稲を8ヘクタール耕しています。家族三人でやっていくには今が丁度よい規模だと思っていたところ、普及指導員から法人化した方がよいと進められました。個人経営と法人経営はどこがどう違うのでしょうか。会社の経営はやったことがないので利益を出せるのか、赤字にならないかと心配です。そもそも今なぜ農業生産法人なのでしょうか。

回答

家業から企業へ

 国民の食糧を守るために増産に励んだ食管制度のもとでは、作れば同じ単価で買ってくれたので、いわば農産物は競争相手のいない公共料金みたいなものでした。

 この制度が廃止され自由化が進むと採算のとれない農家が増え、専業農家は「売れるもの」を作るようになりました。やがて、消費者が「好むもの」、「欲しいもの」を供給し量産することで所得が伸び企業的農家も現れました。しかしながら、自由競争や市況の低迷に耐えられる足腰の強い経営体にはなっていなかった。

農業は企業的な発想へ

 つまり、農家は長い間自ら販売したり加工する必要がなかったこと、安い家族労働に支えられてきたこと、近隣と協調し農地を守ることが家業であったこと、買い手が値段をつけてくれる成行き経営に妥協してきたことなどが原因でした。これからは「安心・安全で美味しいものを、いかに安く作れるか」という発想のもと、栽培技術を高め仕事の効率を上げるための投資が必要で企業的な戦略が求められます。

経営資源を集約する

 農業には国民の食糧を守り、健康で豊かな食生活を支えるという大きな使命がありますが課題もあります。後継者への事業継承を計画的に進めて相続による農地の分散を避けること、転廃業・離農する農家や集落営農組織を支えて地域農業を再生していくことです。これらを解決していくことは個人でも可能ですが、「人」「物」「金」の経営資源をもっと集約して効果を上げるためには法人組織がどうしても必要になってきました。

法人成りは相続対策

 法人は人の集まりで公人ですから相続がありません。後継者が株式を所有している限り生産の施設も販売の経路も農地や立毛も、ゆるぎない地歩をしめることになり、経営をいつまでも続けることができます。個人がどんなにすばらしい経営をされ生産や販売のしくみを遺しても、後継者がいないと相続によって廃業を余儀なくされることがあるのです。つまり、法人成りは家と農業を守るための相続対策といえます。

法人の信用は経営者次第

 経営を任された役員は、株主や取引先、従業員、消費者、地域社会への責任をはたすのに対して、個人は自己責任のもとで社会的な役割を果たしていくところに違いがあります。とくに、役員報酬を決めたり利益の配当をするとき、経営方針を示すとき、他社と合併するとき、借金をするとき、赤字決算を報告するとき、役員は常に連帯してその責任を明らかにしておかなければなりません。これらの積み上げによってのみ信用が築かれるものであって、法人成りすればいきなり信用がつくというものではないのです。

事業主の利益を確保する

 法人税では役員への給与や退職金を損金に認めているのに、所得税では事業主への給与や退職金は必要経費になりません。会社は役員報酬を支払ったあとの利益を納税や配当などに充て残余は社内に積立てられますが、個人は農業所得から所得税などを納付した残余額が経営者の手取りになります。結果としての手取りだけに、成果に応じた報酬になっていないのが現実なのです。法人と同様に節税しながらしっかり老後を確保したいものです。

会社経営の基本

 会社経営の基本は正しい経営理念をもつことで社会に貢献できるのです。法人にすれば必ず成功するとは限りません、利益がなければ存在意義がなく会社は生成発展しないからです。確かな経営を目指すためには「入りを図って出を制す」の考えのもとに、計画を立て、実績との対比など結果を分析する周到さが必要です。生産原価を抑え冗費を節約すると節税しながら資本が造成され、経営の自信を深めていくことになります。要は「雨が降ったら傘をさす」式のどこまでも基本に忠実な経営姿勢が大切なのです。

赤字は解消するもの

 個人の延長である会社は生きものですから、利益を追求するも赤字になることがあります。欠損金は9年間にわたって繰越控除することができますから、赤字の原因をとらえ早期に対策できれば黒字に転換することも可能なのです。慢性的に欠損を繰り返すような経営には無理があるので、他の会社と合併するか解散して個人で出直す決断も必要です。解散すると会社を清算することになります。全ての資産を換金し負債を返済して資本金と精算します。結果としての過不足額を経営者が負担することによって会社は清算が結了することになります。