地震による被害を受けた場合の所得税はどうなるのか
3月11日の東日本大震災では、地盤の液状化現象によって物置と米の倉庫が傾いたほか、田んぼが隆起してしまいました。墓石や石塀も倒れ、居宅は屋根瓦が崩れ落ち壁や床に亀裂が入るなど大きな被害を受けました。知人から見舞いを頂いたので、もっと大きな被害のあった地域にと義捐金品を送りました。
このような損害が生じた年の所得税や住民税はどのように軽減されますか。
回答
生活に必要な資産の損害は雑損控除
所得税では、災害などによって被害を受けた納税者の税負担を軽減するために、その損害額を農業所得等の必要経費算入と認め、雑損控除や所得税を減額または免除する制度を設けています。
雑損控除は、居宅や家財など生活に通常必要な資産が、震災等によって被害を受けた場合に、その損害額及び災害関連支出の額を総所得金額から控除するものです。その年の総所得金額から控除しきれない雑損失の金額は、翌年以降の五年間に繰越して控除することができます。
雑損控除の対象になる資産と費用
地震によって倒壊した石塀や墓石の改修費、倒れかかった物置を取壊して除去する費用は、生活に通常必要な資産の損失として雑損控除の対象になります。
事業用資産の損失は必要経費算入
地盤の液状化によって隆起した田んぼや傾いた倉庫の原状回復費用、隆起した田んぼや倉庫の敷地をおおむね一年以内に修復した場合の費用倉庫を取壊した場合の費用(倉庫の未償却残高を含む)は農業所得の必要経費に算入することができます。
なお、これらの費用を必要経費に算入した結果、農業所得が赤字になり他の所得からも引ききれない損失額は翌年以降五年間に繰越して控除します。
青色申告者で減収が想定される場合は、この損失額を22年分の所得に繰り戻して所得税の還付を受けることも可能です。
雑損控除額の計算
総所得金額から控除できる雑損控除額は次の(1)または(2)のいずれか大きい方の金額です。(1)(損失額―総所得金額の10%―損害保険金等で補てんされる金額) (2)(損失額のうち災害関連支出の金額―5万円)。
雑損失の金額の計算
雑損控除の対象となる雑損失の金額は、居宅や物置の災害直前の時価額と災害直後の時価額との差額です。建物の取得価額がわかる場合は、災害直前における建物の帳簿価額(建物の取得価額から減価償却費の累計額を控除した金額)に被害割合を乗じた損害額と原状回復費用(修繕費)の合計額です。
被害割合は修復工事の見積書等によって算定した実損額を時価額で除したものですが、税務署長が示した「被害割合表」により求めた被害割合を使って計算することができます。なお、被害が軽微な場合は、このような簡便な計算法でなく実額計算が必要ですから留意して下さい。
建物の取得価額がわからない場合は、建物の構造などの別により税務署長が示した「工事用表」の工事単価に総床面積を乗じて得た額を建物の取得価額(帳簿価額)とすることができます。修復費用のうちどの部分が資的支出か修繕費かが明らかでないときは支出額の30%相当額を原状回復費用とすることができます。
なお、減価償却費は取得した日から被災した日までの期間「6ヶ月未満切捨て、6ヶ月以上は1年に切り上げ」について、法定耐用年数の1.5倍の年数の償却率を使って計算したものです。
雑損控除と所得税の軽減免除は選択
震災による損害額が居宅や家財等の時価額の50%以上であり、かつ所得金額の合計額が1000万円以下である場合には、雑損控除に代えて所得税額の25%から100%まで軽減免除される災害減免法の適用を受けることができます。
雑損控除を適用してもなお課税総所得金額があり、今年の所得金額が500万円以下である場合は所得税の減免をうけた方が得ということになります。
申告書への記載と添付書類
雑損控除の適用を受ける場合は、確定申告書B様式の二表の「所得から差引かれる金額に関する事項」欄に、雑損失にかかる損害額等、支払を受けた損害保険金等を記載したうえ、給与所得の源泉徴収票、罹災証明書、損害額を明かにする工事等の見積書や領収書等を添付して申告する経費があります。なお、雑損控除や繰戻還付については、平成23年分に限らず平成22年分について修正申告または更正の請求をすることも可能です。
見舞金をもらった場合
個人が友人や知人から災害の見舞金を受け取った場合は、その見舞金等が贈与者との関係等に照らし社会通念上相当と認められものについては所得税の課税はされません。
義捐金品を支出した場合
災害援助法の適用地域の被災者のために日本赤十字社や地方自治体等一定の団体を通じて農産物等の物資や金銭を拠出した場合は、当該農産物の生産者価額や支出した金銭の額は所得税の計算上寄付金として所得控除することができます。
控除額は2千円を超える部分の金額で総所得金額の80%までとされました。
(税理士 西田 芳秋)