相続した土地を譲渡したときの税金
父の相続の際に農地の相続税の納税猶予の特例を受けました。ところが今年になって突発的な費用が発生したことで適用を受けていた農地を処分することになりました。相続税と譲渡税はどのように計算して納税することになりますか。
回答
土地の譲渡益計算のしくみ
個人が土地を売ったときは、所有期間中の値上がり益に対して所得税と住民税が課税されます。土地の値上がり益は、譲渡代金と取得に要した金額(取得費といいます)との差額ですから、これを実現するために要した譲渡費用を控除して算出します。したがって、譲渡した土地はいつ買ったものなのか、いくらで買ったものか、途中で改良を加えていないかなどを確認しておく必要があります。
取得価額の計算
相続とか贈与によって取得した土地は、元の所有者(父)が実際に取得した時の価額と取得した時期を引き継ぐことになっています。値上がり益を計算する場合に、実際の取得に要した金額が譲渡代金の五%相当額より大きい場合は実際の取得費を、実際の取得金額が分からない場合は譲渡代金の五%相当額をその土地の取得費とすることができます。
なお、譲渡した年の一月一日において五年を超えて持っていた土地を譲渡した場合は長期譲渡、五年以下の場合は短期譲渡などと譲渡した物件毎に区分判定し、長期譲渡所得に対しては二十%(うち地方税は五%)、短期譲渡所得に対しては三十九%(うち地方税は九%)の税率を適用して所得税と住民税を算出します。
納税猶予を受けている農地の譲渡
さて、相続税の納税猶予の特例を受けている農地を譲渡した場合は、譲渡した日の翌日から二ヶ月以内に、猶予されていた相続税額のうち譲渡した農地に対応する相続税額と利子税をあわせて納税しなければなりません。譲渡した農地の面積が特例を受けた農地の総面積の二十%を超えるときは、納税猶予は全部確定し猶予税額の全額と利子税を納付することになりますから留意して下さい。また、譲渡代金をもって一年以内に農地を買い換えた場合の継続適用の制度もあります。
生産緑地を譲渡する場合
譲渡する農地が生産緑地の場合は、まず生産緑地の「買取り申出」をして生産緑地の指定を解除してもらう必要があります。買取り申出ができるのは、主たる農業従事者の死亡または疾病等により農業に従事することができない状態になった場合に限られていることから、相続の場合は相続開始後おおむね一年以内に申出することとされています。
市は買取りの申出を受けて、買取らない旨の通知をした後は農業従事者にあっせんすることになりますが、一定期間買受の希望がなければ生産緑地の指定を解除することになっています。この手続におよそ四ヶ月程度かかること、この間に買受希望者が現れることも考慮しておかなければなりません。
相続開始後三年以内の譲渡
相続によって取得した農地を、相続開始の日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後三年以内(つまり相続開始の日の翌日から三年十ヶ月以内)に譲渡した場合の取得費は、その土地の取得費に相続税額のうち土地等に対応する部分の金額として一定の算式によって計算した金額を加算することができます。したがってこの間に譲渡すると、譲渡所得は小さくなり税負担が軽減されることになります。
なお、譲渡の日は、原則として農地の引渡しのあった日によるものとされていますが、売買契約が締結された日の年分に譲渡があったものとすることができます。
農地保有の合理化等のために譲渡した場合
農業振興地域内の農地を農業委員会のあっせん等により譲渡した場合など、一定の要件に該当するものについては、その譲渡所得から八百万円の特別控除が適用されます。
優良住宅地の造成等のための譲渡
優良住宅地等の予定地として開発許可を受けて行われる千㎡(特定の場合は五百㎡)以上の一団の宅地の造成を行う者に対して譲渡する場合は、一定の要件のもとにその譲渡益のうち二千万円までの部分について、譲渡税の税率は十四%(所得税及び住民税)に軽減されます。つまり、最高百二十万円(うち住民税は二十万円)の節税が可能になります。
なお、市町村に公共施設の予定地等として買い取られる場合は、千五百万円の特別控除の特例を受けることができます。
連帯保証人として譲渡した場合
主たる債務者が債務を弁済できないことから、連帯保証人としてこれを履行するために土地を譲渡した場合で、譲渡代金の全部又は一部を弁済にあてるも、主たる債務者から弁済を受けることができないときは、弁済不能となった金額は譲渡所得の金額の計算上なかったものとされます。
(税理士 西田 芳秋)