「遺産分割協議前に遺産の貯金で医療費を払える?|仮払制度で払い戻しを受けられる分は払える」
質問
夫が亡くなりました。子が無く、相続人は私(妻)と夫の父母の3人です。夫は長く入院していたのでJA厚生連X病院から医療費(保険適用外診療分)120万円を請求されました。私は無職で貯蓄がなく、夫の生命共済の受取人は義父なので支払えません。私は亡夫名義の農協の普通貯金(約450万円)で払いたいのですが、義父が認知症のため遺産分割協議ができません。どうすれば、亡夫名義の貯金から医療費を払えますか。
回答
遺産分割前の預貯金の払い戻し制度(民法909条の2)を利用しましょう。
各共同相続人は、遺産分割前でも、遺産の預貯金のうち、相続開始時の額の3分の1に、払い戻しを求める相続人の法定相続分を乗じた額(但し、1つの金融機関の払い戻しの上限額は150万円)までは、単独で払戻しを受けられます。この制度は、最高裁の判例変更(平成28年12月19日)によって、共同相続人全員の同意がないと被相続人の預貯金を迅速に払い戻すことができなくなった不都合(被相続人の債務の支払いや、被相続人に扶養されていた相続人の当面の生活費の支出など)に対処するために設けられました。
本件では、あなたの法定相続分は3分の2ですから、この制度を使ってあなたが単独で払い戻せる額は100万円(450万円×3分の1×3分の2)となります。
請求された額には20万円足りませんが、100万円までならば、亡夫名義の農協の貯金から払えます。あなたが単独で100万円の払い戻しを受けると、あなたは、先に遺産の内の100万円を取得して夫の医療費を支払ったことになります。正式な遺産分割のときには、亡夫の医療費の支払い分を亡夫の債務として計上し、共同相続人と協議すると良いでしょう。
「事業用定期借地権は更新できない?|再契約または期間延長の合意で」
質問
私は、レストランに土地を貸しています。契約期間が終われば土地が返ってくるというので、公正証書で事業用定期借地権設定契約というもの結んでいます。まもなく契約期間の30年が終わるのですが、レストラン側がまだ営業したいといいます。レストランは繁盛しているようですし、これまで地代の未払いもありませんので、私としては応じてよいかと思うのです。しかし、公正証書には更新はないと書いてあります。どのようにすればよいでしょう。
回答
事業用定期借地権設定契約は、ファミリーレストランやコンビニエンスストアの用地で多くみられる契約形態です。通常の借地契約と異なり、契約期間が終わると更新はなく貸主は土地の返還を受けることができるという借地契約です。契約期間は10年以上50年未満で定めることができます(借地借家法23条1項、2項)。契約は公正証書で結ばなければなりません(同条3項)。
このように、事業用定期借地権設定契約には更新はありませんが、改めて貸主と借主が再契約をすることは可能です。ただし、これは新たな契約ですから、最初の契約と同じく、公正証書にしなければなりません。
また、もう何年か営業したいという場合、契約期間が50年以上とならなければ、契約期間の延長の合意をする方法もあります。この合意は、借地権設定契約そのものではなく借地条件の変更にすぎませんから、公正証書の作成は必須ではありません。もっとも、後日の紛争を避けるためには文書で合意をしておくべきでしょう。
あなたの場合も、契約期間をどのくらいにするかを考えて、契約期間の延長または再契約の方法で対応するとよいでしょう。
(弁護士 長島佑享)