「ピアノ教室でも著作権使用料が?|先生の演奏にかかるので要相談」
質問
子供がグループ・レッスンのピアノ教室に通っています。今までは流行のアニメのテーマソングなどを練習していましたが、先生から「今の曲を練習すると、法律で先生がお金を取られてしまうから、バッハやベートーベンを練習します。」と言われ、大好きなテーマソングを練習できずがっかりしています。教室での生徒達の練習にもお金を取る法律があるのですか。
回答
著作権者は、その著作物を公衆(不特定又は多数,著作権法2条5項)に直接聞かせることを目的として演奏する権利を持ちます(法22条,「公の演奏」)。著作権の存続期間は、著作者の死後70年を経過するまでです(同法51条)。法は、流行している曲の著作権の保護期間中に料金を得て公に演奏することは著作権の侵害としています。
判例(最高裁令和4年10月24日判決)は、生徒が先生の前で弾くことは、教師から演奏技術等の教授を受けてこれを習得し、その向上を図ることを目的とするもので、他の生徒に聞かせるためではないこと等から、教室運営者(先生)は、生徒の演奏について著作権使用料を払わなくても良いと判断しました。
しかし、先生の演奏については、数小節だけであっても公の演奏に当たるとして、先生は著作権使用料を払う義務があるとされました(原審である知財高裁令和3年3月18日判決)。
つまり、生徒自身は著作権使用料の支払いはないものの、先生は著作権使用料を払う義務があるため、今後、流行の曲を教室で教わるときは受講料について先生に確認するといいでしょう。
「遺言書の押印日と書いた日が違えば無効ですか?|押印の状況や経緯などから総合的に判断します」
質問
夫甲は入院中、後妻である私Aと、先妻と甲の長男Bの前で、自筆で遺言書の全文と日付を書き、署名をしましたが、その日(9月15日)には押印しませんでした。甲は退院後の10月1日、AとBのほか税理士の立ち会いのもと、先の遺言書の署名の下に自ら押印しました。遺言は、全財産をAに相続させるという内容です。
11月1日に甲が亡くなると、Bは「遺言書に書かれた日付は甲が押印した10月1日ではなく9月15日だから無効」と言い出しました。この遺言書は無効なのでしょうか。
回答
自筆遺言書の成立には、遺言の全文、日付と氏名を全て自書し押印する、という方式を充たすことが必要です(民法968条参照)。そのため、遺言の成立日とは、全ての方式を充たした日と解されています。
本件では、押印がされた10月1日が遺言の成立した日となります。しかし、遺言書には、9月15日と書かれています。遺言の成立した日(押印により全ての方式を充たした日)とは違う日の日付の遺言書となります。そのためBは、方式違反で無効(民法960条)だと言っているのでしょう。
そもそも、民法968条1項が、遺言書の全文、日付と氏名の全ての自書と押印という方式を要求している理由は、遺言者の真意を確保するためです。それなのに、方式を厳格に要求したために、遺言者の真意の実現が妨げられては本末転倒です。
判例は、入院中に自筆証書による遺言の全文、日付と氏名を自書し、その27日後(退院9日後)に弁護士立会のもとで押印した、という事情のもとでは、押印した日とは違う日付が書かれているからといって、直ちに遺言が無効となるものではないとしています(最高裁令和3年1月18日判決)。
本件でも押印した日と、書いてある日付が違いますが、それだけでは無効とは言い切れません。違う日付となった詳しい経緯、押印の状況などを総合的に判断する必要があるでしょう。
(弁護士 長島佑享)