「捨印による遺産分割協議書の変更可能?︱無断で内容変更しては駄目」
質問
先月、亡き父の遺産について、妹、弟と私の3人で遺産分割協議書を結びました。しかし、昨日、新しく父の定期預金100万円のあることが分かりました。妹と弟は遺産分割協議書の余白に捨て印を押していてくれたので、これを利用して、私が手書きでこの定期預金を私の取得する遺産の欄に書き加えておけば私が1人で払戻しを受けることはできるでしょうか。
回答
契約書や遺産分割協議書などの文書に書きまちがえ(誤字)や書きおとし(脱字)があった場合、全員がそのところに訂正印を押すか、文書そのものを作りなおすのが原則です。しかし、たとえばふりがなの誤字や番地の脱字などでもすべてそのような対応をすることはあまりに手間がかかります。そこで、例外的に、ちょっとした誤字や脱字であればほかの人がなおしてもよいということをあらわすために、文書の余白に印を押すことがあります。これが捨て印です。
あなたの場合、定期預金を書き加えるというのは、遺産の内容や金額、誰が取得するか、といった文書の重要なことがらを変更することになります。ですから、捨て印を利用するべきではありません。手間はかかりますが、遺産分割協議書をつくりなおすなどの方法で、妹と弟の意思をきちんとたしかめましょう。
なお、捨て印そのものについて定めた法律はありません。また、自筆証書遺言のように変更方法について特別の定め(民法968条3項)がされている文書もあります。そのほか、余白に押されている印が捨て印なのか訂正印なのか、また捨て印でどこまでなおすことができるのか、というトラブルもあるところです。そのため、むやみに捨て印を押すことはおすすめしません。
「離婚したら住宅ローンはどうなる︱夫婦が財産分与で清算する」
質問
私Aと妻Bは、離婚の財産分けの話合いをしています。私と妻は自宅(1500万円相当)を共有持分1/2ずつ持っています。この他、私には300万円の預金、残高2000万円の住宅ローンが、Bには1200万円の預金があります。Bは、「共有持分1/2を渡すから借金は全部払ってね」と言います。2人で買った自宅なのに、私だけが住宅ローンを払うのは不公平ではないでしょうか。
回答
離婚における財産分与とは、夫婦が婚姻中に協力して得た財産を分ける制度です。具体的には、プラスの財産の合計から、住宅ローンなど共同の利益のために生じた債務を差し引いた残りを、原則として等分します。
本件では、2人のプラスの財産の合計3000万円(自宅1500万円+Aの預金300万円+Bの預金1200万円)から、住宅ローン2000万円を差し引いた1000万円を等分するので、1人当たり500万円となります。
現在、A名義の財産はマイナス950万円(自宅の共有持分1/2の750万円+預金300万円-住宅ローン2000万円)、B名義の財産はプラス1950万円(自宅の共有持分1/2の750万円+預金1200万円)です。
したがって、Aは、現在のA名義の財産であるマイナス950万円に、Bの共有持分(750万円)と金銭で700万円を分与してもらえるのであれば、財産の合計が500万円になりますので、住宅ローンを全額負担しても、不公平とは言えないでしょう。
(弁護士 長島佑享)