「自宅を壊し土地を返さなければならない?︱返還する必要はない」
質問
私の夫Aは、10年前にAの父Bから土地を無償で借りて自宅を建築し、私や子供と居住していました。5年前にAが亡くなり、私が自宅建物を相続し、そのまま子供と居住していました。ところが、先日、義父Bから「土地はAに無償で貸した。無償で貸した場合、借主が死亡すると契約は終了するから、土地を返してほしい。」と言われました。私は自宅を壊して土地を返さなければいけませんか。
回答
AとBの間には、法律上、土地使用貸借契約が成立しています(民法593条)。使用貸借契約は、原則として借主の死亡により終了しますので(民法597条3項)、相続人は契約を引き継ぐことができません。使用貸借は、賃貸借と異なり、貸主と借主の特殊な人間関係の下で、貸主の好意に基づいて行われることが多いからです。
しかし、建物所有のための土地の使用貸借の終期は、建物の所期の用途にしたがった使用を終えた時と解されることから、建物の使用が終わらない間に借主が死亡しても、特段の事情がない限り、土地の使用貸借が終了することはありません(大阪高裁昭和55年1月30日決定)。建物の性質上、敷地の使用貸借は長期間になることが当然予想されますし、借主の死亡により契約が終了するとは、貸主・借主とも想定していないと考えられるためです。
あなたの自宅は、建築から10年経過しただけですので、建物の所期の用途に従って使用を終えたとはいえません。しかも、A死亡後も義父Bとの間で使用貸借が継続していました。
したがって、いまだ土地使用貸借は終了していませんので、土地を返還する必要はないでしょう。
「墓守代を父の遺産分割でもらえるか?︱相続人の合意ないと難しい」
質問
父が亡くなったので、相続人の姉、私、妹、弟の4人で遺産分割の協議をしています。姉たちに、「長男の私が先祖代々の位牌や墓と共に今後の墓守をするので、墓守代として父の現預金から1,000万円位多く貰いたい。」と言ったら、姉から、「1,000万円多く貰えるなら私が墓守する」と反対されました。私の住む地域では、江戸時代から代々長男が家を継ぎ墓守している家ばかりですが、私の考えは通らないのですか。
回答
系譜、祭具及び墳墓は祭祀財産となり、相続の対象ではありません(民法987条1項本文)。従って、民法では、祭祀財産の承継と遺産分割とは別の話になります。
祭祀承継者を決める基準は、順に、①被相続人の指定、②慣習、③家庭裁判所の指定です。②の慣習としては、旧民法下の家督相続の慣習は採用されません。
現行民法は、封建的な家族制度を廃止して個人の尊厳と自由を基礎として制定されたのに、その解釈適用において家督相続による戸主中心主義の旧民法時代の慣習を採用したのでは、現行民法の趣旨が骨抜きになってしまうからです(大阪高裁昭和24年10月29日決定)。
従って、敗戦前の昭和迄続いた家督相続時代の慣習を根拠に「今でも長男が当然に祭祀を承継する慣習がある」という主張は難しいでしょう。
先のとおり、祭祀財産は遺産ではないので、祭祀承継と遺産分割は連動しませんから、祭祀主宰をすることを理由に、祭祀料として当然に他の相続人よりも多くの遺産を得る権利があるとはいえません(東京高裁昭和28年9月4日決定)。
従って、誰が祭祀承継者となっても、また、金額の如何を問わず、相続人全員が同意しない限りは遺産から将来の祭祀料を取得することは難しいでしょう。
(弁護士 長島佑享)