遺言でもらった権利 取り戻せる?-登記してないと難しい場合も
質問
兄Aが貸しビルの土地建物を遺して死亡し、相続人は、弟の私BとCの2人です。Aには「全財産をBに相続させる」との公正証書遺言があります。この遺言を知ったCは「不公平だ。半分渡せ」と強硬なため、取り合わずにいました。ところが、後日、登記を取ってみたら、土地建物とも私と、私の知らない他人Dとの1/2ずつの共有になっていました。どうすれば良いでしょう。
回答
Aの「全財産をBに相続させる」という遺言により、Aの遺産は全てBに引き継がれ、弟Cには何らの権利もありません(遺留分もない)。
しかし、Aの相続についてのBとCの法定相続分は各2分の1なので、Bが遺言による登記をする前であれば、共同相続人Cは単独で法定相続分の登記をすることができます。
Aの遺言を知らない人がこの登記を見れば、BとCは各1/2の権利者のように見えます。共有持分権は他の共有者の承諾なしに譲渡できるので、Cは、登記上の共有持分権1/2を、Bの承諾なしにDに売ってしまったのでしょう。
Aの遺言により、自己の法定相続分2分の1を超えて権利を取得したBは、その超えた分、すなわち持分2分の1について登記を備えておかないと、先に登記をし終えたDに対して対抗できません(民法899条の2第1項)。
つまりBは、「遺言がある」というだけでは、Dから1/2の権利を取り戻すことができません。仮に、DとCとが共謀してBを害するために登記した等の事情があれば、「悪意の第三者」ですからDから取戻しできる可能性はありますから、事実関係を調査するとよいでしょう。
Dから持分2分の1を取り戻せない場合は、民事上はCに損害賠償請求をし、刑事上は公正証書原本不実記載罪(刑法157条)の被害を警察に相談するとよいでしょう。
(弁護士 長島佑享)