被相続人の遺言により、一部の相続人の遺留分が侵害された場合誰に、いくら遺留分の請求ができますか
質問
夫Aが令和2年8月に死亡しました。相続人は、妻B、子Cと、前妻との間の子Dがいます。Aの遺産は、預貯金6000万円、不動産8000万円、借入債務2000万円があります。Aは、預貯金をBに、不動産をCに相続させる遺言を残しています。Dは、B、Cにいくら遺留分の請求ができますか。
回答
遺留分を算定するための財産の価額は、「被相続人が相続開始の時に有していた財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額」、と定められています(改正民法1043条)。
この結果、本件では、遺留分の基礎となる財産の価額は、6000万円+8000万円︱2000万円=1億2000万円となります。したがって、Dの遺留分の額は、1億2000万円×1/2(子の法定相続分)×1/2(子の遺留分)×1/2(子の人数)=1500万円となります(改正民法1042条)。
そして、Dは、この遺言により、自己の遺留分1500万円が侵害されていますから、受遺者B、Cに対して遺留分侵害額を金銭で支払うよう請求することができます(改正民法1046条)。
これにより、Dは、Bに対しては1500万円【遺留分額】×(6000万円【Bの取得額】/1億4000万円【預金+不動産の額】)=642万8572円を、Cに対しては1500万円×(8000万円【Cが取得する不動産の額】/1億4000万円)=857万1429円の支払いを請求することができます。
なお、借入債務2000万円については、遺言に特別な定めがない以上、各相続人が相続の開始と同時に法定相続分に応じて分割されて承継しますので、Dは債権者に対して、2000万円×1/2(子の法定相続分)1/2(子の人数)=500万円を返済すべき義務を負います。このため、Dとしては、被相続人の財産については遺留分の限度でしか遺産を取得できないのに対し、相続債務については法定相続分に従って債務を負担させられることに不公平感を抱くでしょうが、法制度上やむを得ないことです。
ところで、遺留分侵害額の請求については、通常、遺留分権利者Dから受遺者B・Cに対し、内容証明郵便により通知して行います。しかし、この段階では、遺留分侵害額を具体的に確定させる必要はなく、「遺言者Aの遺言は、遺留分権利者Dの遺留分を侵害しているので、遺留分侵害額請求権を行使します。」旨を記載すればよいとされています。
遺留分侵害額の請求は、遺留分権利者(D)が、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によってこれを行使することができなくなります。相続開始の時から10年を経過したときも、同様に行使できなくなりますので注意が必要です(改正民法1048条)。しかし、一度遺留分侵害額請求の通知を出しておけば、以後、時効によって権利が消滅することはありません。
遺留分侵害額の請求について、当事者つまりB・C・D間で協議しても解決することができないときは、家庭裁判所に家事調停(遺留分侵害額請求調停)の申立てをします。家事調停でも解決することができないときは、地方裁判所に訴訟(遺留分侵害額請求事件)を提起して解決を図ることができます。
(弁護士 長島佑享)