土地の使用貸借契約で貸主が死亡したら?—契約は継続も期間の考慮が必要
質問
私は父から土地を無償で借り受けて建物を建て、妻子と居住していますが昨年、父が死亡しました。
相続人は、私(長男)と弟(次男)の二人ですが、父の遺言により、この土地を弟が相続することになりました。この場合私は、建物を取り壊して、土地を弟に明け渡さなければなりませんか。
回答
土地や建物を無償で貸し借りすることを使用貸借契約といいます。
使用貸借契約は、貸主が死亡しても、契約は終了しません。貸主の地位を相続により承継した相続人との間で契約は継続します。従ってあなたは、弟に建物を収去して土地を明け渡す義務はありません。
しかし、この場合、使用貸借契約がいつまで続くのかが問題です。契約で期間を定めていれば、その期間の満了時に契約は終了します。契約で期間を定めていない場合には、借主が契約で定めた使用目的(建物の所有)に従い、使用収益を終えた時に契約は終了します。しかし、それ以前であっても、「使用収益をするのに足りる期間が経過」したときは、その時に契約は終了します(民法597条2項)。
建物が朽廃や空き家化などすれば使用収益を終えたと判断できますが、まだ朽廃には至らないとき、いつになれば「使用収益をするのに足りる期間が経過」したといえるのかは難しい判断です。事案により異なりますから、一概にいつまで(何年)ということはできません。判例は、経過した年月、土地が無償で貸借されるに至った事情、その後の当事者間の人的つながり、土地使用の目的や方法、貸主が土地の使用を必要とする緊要度等を総合考慮して判断すべしとしています。
遺言に反して他の相続人が法定相続分を第三者に売却—どちらが優先するかは登記の先後による
質問
母が死亡しました。遺産は自宅(建物とその敷地)だけです。相続人は私A(長男)と弟Bの2人です。母は「自宅の土地建物を長男Aに相続させる」との遺言を残しています。ところが、Aが母の遺言により自宅の所有権移転登記をする以前に、Bが法定相続分による共有登記をして、自己の共有持分2分の1を第三者Dに売却し、Dに持分移転登記をしました。この場合、AはDから自宅の持分2分の1を取り戻すことができますか。
回答
「自宅の土地建物を長男Aに相続させる」との遺言(遺産分割方法の指定)があると、母が死亡した時点でAは、遺産分割を要せず、自宅の土地建物の所有権を取得し、単独で所有権移転登記をすることができます。
そして、Aが所有権移転登記をする以前に、Bが法定相続分による共有登記をしたうえ、自己の共有持分2分の1を第三者Dに売却し、Dに持分移転登記した場合でも、Aは、登記なくして、自宅の所有権全部取得をDに対抗することができました(DはBの共有持分2分の1を取得できない)。
しかし、このたび民法が改正され、改正民法899条の2第1項は、「相続による権利法定相続分を越える部分については、登記、登録その他の対抗要因を備えなれば、第三者に対抗することができない。」と定めました。
この法改正により、2019年7月1日以後に開始した相続については、遺言による権利の承継は、法定相続分を超える部分については、登記等の対抗要因を備えなければ第三者に対抗できないこととなり、AまたはDのどちらが優先するかは、登記の先後によって決まることとなりました(対抗要件主義の採用)。
この結果、Aは、遺言により自宅の所有権を取得したものの、所有権移転登記が未了のため、第三者Dに対抗することができず、Dから共有持分2分の1を取り戻すことができません。従ってAは、Dと遺産分割協議または共有物分割協議を行って解決を図る以外にないでしょう。
長男Aは、母死亡後、すみやかに遺言による所有権移転登記をしておけば、このような事態を避けることができたのです。
(弁護士 長島佑享)