「全財産を相続人の1人に相続させる遺言—法改正により作り直しの必要あり」
質問
父Aは、3年前に「全財産を長男Bに相続させる。そのかわりBは次男C、長女Dに代償金として各100万円を支払わなければならない。」とする遺言書を作りました。 Aの財産は自宅、農地など1億円相当の不動産と、預貯金200万円があるだけです。今から遺言を書き替える方が良いでしょうか。
回答
今年の7月1日に施行された改正相続法(同日以降に発生した相続)では、遺留分権利者は、遺留分権を侵害した受遺者(又は受贈者)に対し、遺留分相当額の金銭の支払請求ができることになりました(民法1046条1項)。
注意すべき点は、改正前は、話し合いや訴訟によって、遺留分権利者に遺留分相当額の遺産(不動産や有価証券等)又は代償金を取得させることができました。
しかし、改正後は、権利者の側からみると、遺産の一部を現物で取得することが、できなくなり、金銭でしか請求できなくなりました。つまり、受遺者は、遺留分権利者から遺留分を請求されたときは、遺留分権利者に払うべき金銭を用意しなければなりません。
Aの遺言では、約1億200万円の遺産があると、CとDは各自Aに対し、6分の1の遺留分相当額である1700万円の支払請求権を取得します。従って、Aは、計3400万円の資金を用意することが必要になります。
Aが自己資金で計3400万円を用意できれば良いのですが、困難な場合には、Aは遺言を書き替えて、CとD各1700万円相当の不動産を取得させるなど、遺言の内容を変えることが必要になるでしょう。
「妻に不動産・預貯金の半分相続させたい—婚姻20年以上の配偶者保護へ」
質問
私は妻Aと結婚して20年以上になります。財産は居住用不動産(居住用建物とその敷地)3000万円と、預貯金3000万円です。子は2人で、いずれも結婚し独立しています。妻が将来生活に困らないように居住用不動産と預貯金1500万円を相続させ、子らには預貯金を750万円ずつ相続させたいです。どうすれば良いですか。
回答
妻と子2人が相続人の場合、法定相続分は妻が2分の1、子が各4分の1です。遺留分は法定相続分の2分の1ですから、子の遺産分額は1人当り750万円です。あなたの考えは、子らの遺留分を侵害するものではありません。考え通りの遺言書を作成すると良いでしょう。そうすれば妻は、居住用不動産と預貯金1500万円を取得できます。
改正民法903条4項は、高齢の配偶者を保護するため、婚姻期間が20年以上の夫婦間で、配偶者の一方が他方配偶者に居住用不動産(居住用建物又は敷地)を贈与または遺贈した場合、その贈与等は相続財産に加算しなくて良いとする持戻し免除の意思表示をしたものと推定する、と規定しました。
もしあなたが妻に居住用不動産の贈与等をした場合、法改正前は、同贈与等は遺産分割において遺産の先渡しとみなされて遺産に組み入れられます。妻が取得できる財産額は贈与等がなかった場合と同じ3000万円相当の財産になります。一方で、法改正後は、同贈与等は原則として遺産に組み入れられません。妻はより多くの財産(居住用不動産の他に預貯金1500万円)を取得できます。
この改正法は2019年7月1日以降の相続に適用されます。
(弁護士 長島佑享)