「自筆証書遺言 緩和のポイントは? - 財産目録 パソコンや代筆も有効」
質問
私は後継者のために遺言を書こうと思います。最近、民法が改正により自筆証書遺言の方式が緩和されて遺言が利用しやすくなったと聞きました。どこがどのように緩和されたのでしょうか。
回答
旧民法では、自筆証書遺言については、その全文を遺言者が自書することが必要でした。たくさんの種類の財産がある場合、これをいちいち遺言者が自書することは大変な作業です。
そこで、改正民法では、遺言を利用しやすくするため、(1)自筆証書中の財産の特定に必要な財産目録については、自書によることを要せず、パソコンや他人による代筆、登記事項証明書や預貯金の通帳の写しを添付することでもよいとし、(2)この場合、遺言者は、自書によらない財産目録の全頁(自書によらない記載がその両面にある場合にはその両面)に署名し、押印することを要すると定めました(改正民法968条2項)
つまり、旧民法では、自筆証書遺言についてはその全部につき遺言者の自書が必要でしたが、改正民法では、本文は自書が必要ですが、財産目録についてはパソコンや他人の代筆でも有効に成立するとしたのです。この自筆証書遺言の方式緩和は平成31年1月13日から施行されました(同法律附則1条2項)。
また、改正民法下では、新たに法務局に自筆証書遺言を保管してもらう制度が創設されました。(法務局における遺言書の保管等に関する法律1条)。この制度を利用することにより、家庭裁判所の検認手続きは不要となり、相続登記や遺産である預貯金等の解約手続きを早期にできるメリットが生じます。この法律は2020年7月10日から施行されます。
「遺産分割前における被相続人の預貯金の払出しは可能? - 法改正により一部の払出しは可能」
質問
夫が亡くなりました。遺産は自宅とJA貯金1800万円があるだけです。相続人は、妻の私、長男、長女の3人です。親子仲が悪く、遺産分割協議が進みません。葬儀費用等を全額私が支払ったので、生活が厳しいです。遺産分割前に、夫の貯金を払出すことはできませんか。
回答
最高裁(平成29年12月19日決定)は、従前の判例を変更し、被相続人の預貯金債権については、遺産分割が成立するまでは、共同相続人全員の準共有状態にあり、共同相続人全員の同意がない限り、単独で払い戻すことはできないとしました。
このため、被相続人の債務の返済が出来ない、被相続人の扶養を受けていた相続人が当面の生活費を支払えないなどの不都合が生じました。
そこで改正民法909条の2は、この不都合を改善するため、各相続人は遺産である預貯金債権の3分の1に当該相続人の相続分を乗じた額(但し、同一の金融機関にあっては省令により150万円が限度)については、裁判所の判断を経ることなく、金融機関の窓口で、単独で払戻しが受けられるようになりました。そして、払戻しを受けた預貯金は、遺産の一部分割により当該相続人が取得したものとみなされます。
このように、あなたは遺産分割前に単独でJAから1800万円×3分の1×2分の1(妻の相続分)=300万円の払戻しを受けられるはずですが、同一の金融機関からの払出可能額は150万円に制限されるため、150万円の払戻しを受けることができます。
この法律は2019年7月1日より施行(適用)されます。
(弁護士 長島佑享)