「ゴルフ場が退会会員に預託金を返還してくれない ― 一方的に返還時期を延期するのは無効」
質問
私Aは、B社が経営するゴルフクラブに正会員として入会し、入会保証金として360万円を預託しました。入会したとき同クラブ会則には、「預託金は、ゴルフ場開場後10年間据え置き、その後退会のとき理事会の承認を得て返還する」と記載されています。
Aは、開場10年後に同クラブを退会し、預託金の返還を請求したところ、B社は、理事会決議により会則を変更し据置期間を10年延長したとして返還してくれません。Aは返還請求できませんか。
回答
営業不振等により、会員から預かった預託金の返還が困難となったゴルフ場は、防衛手段として、預託金の据置期間を延長するのが常套手段です。
多くのゴルフ場は、会則で「ゴルフクラブの運営上やむを得ない事由が発生したときは、理事会の決議により預託金の据置期間を延長することができる」ことを定め、そして、ゴルフ場の経営が悪化すると、「ゴルフクラブ運営上やむを得ない事由」にあたるとして、当初10年間とした預託金の据置期間を延長してくるのです。
ゴルフ場側のこのような措置は、当初の会則で将来据置期間の延長があり得ることを定めているのであるから有効との考え方もありました。しかし、判例は、たとえ、当初の会則で据置期間の延長があり得ることを定めた場合であっても、預託金返還請求権はゴルフ会員にとっては極めて重要な権利であるから、これを、会員個人の承諾を得ることなく、ゴルフクラブ側の判断だけで一方的に会員に不利益となる据置期間の延長することは出来ない(無効)としています(最高裁昭和61年9月11日判決)。従って、AはB社に預託金360万円の返還を請求することができます。
「遺留分減殺請求してきた弟が特定の財産を要求 ― 遺留分権利者には選択権なし」
質問
父は、自宅の土地建物のほか、農地、アパート二棟、預貯金を残して半年前に死亡し、遺産を全て長男Aに相続させる遺言を残しています。相続人はA、姉B、弟Cの3人です。姉は遺言を尊重すると言っていますが、弟は遺留分減殺請求をして自分の遺留分額に相当するアパート一棟を要求しています。弟にアパートを渡さないと駄目ですか。
回答
Cが遺留分減殺請求権を行使すると、Cは自己の遺留分割合に応じた持分権(本件では6分の1)を取得しますから、父の遺産はA(持分は6分の5)とCの共有となります。
遺留分減殺の対象となる財産が複数あるとき、減殺請求権を行使した遺留分権利者が、そのうちの特定財産を選択して取得することができるかという問題があります。この点については、民法にそのような選択権を認める規定がないこと、遺留分権利者に選択権を認めると、公平上減殺請求を受けた受遺者にも選択権を認めなければならないという困難な問題が生じてしまうことから、判例は遺留分権利者に選択権を認めていません。従って、Cが遺留分減殺請求をして、アパートの取得を要求したとしても、Aはこれに応じる義務はありません。
なお、今回の民法改正により、改正民法1046条は、「遺留分権利者は、受遺者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができる。」と定めました。従って、同改正民法が施行される2019年7月1日以降に発生する相続については、遺留分権利者は、受遺者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求すべきこととなり、物件の引き渡しを求めることはできません(遺留分侵害額の請求権の金銭債権化)。
(弁護士 長島佑享)