「財産を特定の相続人に相続させる方法は? ― 遺言を。自筆が心配なら公正証書遺言も」
質問
私は今年82歳になりました。畑で野菜を作って出荷していますが、駅に近い土地には農協から借金してアパートを建てて貸しています。長男家族は私と同居して一緒に畑を作っています。既に結婚して家を出た長女と次女が里帰りした時、「私達もちゃんと財産は貰う」と長男に言ったそうです。娘達は農地はいらないでしょうが、自宅やアパートを娘達に取られては、残された妻も長男家族も生活できないので心配です。遺言書は全部自筆で正確に書かなければ無効といわれ大変だと思います。
回答
ご希望は、妻と長男家族が今まで通りに野菜を出荷し、アパート収入で借金や税金を払い、生計を維持することだろうと察します。遺言をしない場合、長女と次女は各自6分の1の相続分がありますから、遺産の6分の2相当額が長女らの権利となります。遺言をすれば、娘達は、法定相続分の2分の1が遺留分となり、各自12分の1、2人で12分の2の権利となります。できるだけ多くの財産を妻と長男夫婦に残したいのであれば、遺言を作ることが効果的です。長男の妻や孫を農業後継者として養子にしていれば遺留分は更に少なくなります。
確かに、遺言書の全部を自筆で書くことは大変です。法改正により、平成31年1月13日以降に作った自筆遺言であれば、遺産目録についてだけは、自筆でなくパソコン等で作っても有効になります(改正法附則6条)。
但し、遺言の本体部分は自筆で作り、遺産目録と一体化させて、自筆でない遺産目録の全頁に自署して押印することが必要です。自筆が心配であれば公正証書遺言がお勧めです。
「相続分譲渡は、遺留分請求される? ― 贈与となるので相続分を加算」
質問
昨年、母が亡くなりました。相続人は長男の私と姉の2人です。母は全財産を私に相続させる遺言をしました。姉は、私に遺留分を請求してきました。母よりも先に死亡した父の相続の時、母は長男の私に先祖からの財産を承継させたいと、私に母の相続分を譲渡したので、私は、自分の相続分4分の1と、母から無償で譲り受けた相続分2分の1を合わせた4分の3相当の遺産を相続しました。姉は、私が母から譲り受けた相続分2分の1も母の遺産として遺留分を計算するのだと言います。これは本当でしょうか。
回答
遺留分の価額は、被相続人が相続開始時に有した遺産だけでなく、これに、生前に被相続人が相続人に贈与した財産の価額を加えて計算します。父の相続の際に、母のあなたへの相続分の譲渡が、母からあなたへの贈与に当たるか否かにつき、初の最高裁判決が出ました。判決は、相続分の譲渡は、相続分というプラス財産とマイナス財産を包括した経済的価値の譲渡であるから、プラス財産とマイナス財産を考慮した相続分に財産的価値がない場合以外は贈与に当たる、というものです(平成30年10月19日判決)。
この判決に従うと、母の相続分2分の1が財産的価値を有する限り、母からあなたへの贈与となりますから、姉の遺留分を計算するときは、母の固有の遺産の価額に、母の相続分2分の1の価額分を加算することになります。
(弁護士 長島佑享)