JA埼玉みずほ

金融機関コード 4859

法律相談

「相続貯金を相続税の支払に充てたい ―一部分割協議により対応可能」

質問

 父が亡くなり、相続人間で遺産分割協議をしていますが、まだ合意ができません。相続税の申告期限が近づいたので、遺産のうち預貯金だけを分割して相続税の支払に充てたいのですが、遺産の一部を分割することはできますか。

回答

 遺産分割は、遺産の全てを1回で分割するのが原則です。しかし、相続人間で遺産の評価の方法、特別受益、寄与分などに争いがあり、最終的に遺産分割の結論が出るまでに相当の時間がかかる場合があります。このような場合には、相続人全員の合意により遺産の一部を分割することもできると解されています(大阪高決昭和46年12月7日)。従って、遺産のうち預貯金について、相続人全員による一部分割協議を成立させて、その払戻金を相続税の支払に充てることは可能です。

 ところで、遺産分割協議が相続人の任意による合意にもとづいて行われたものであれば、法定相続分と異なる分割であっても有効です。ただし、一部分割協議が先行した後、残余財産の分割が調停や審判になる場合があります。その場合には、一部分割された遺産は調停や審判から除外され、残余財産のみが調停・審判の対象となります。そうすると、一部分割された内容が相続人間の不公平を生じさせる場合には、残余財産の分配に当って一部分割により遺産を取得した相続人の取得分に影響を及ぼすことがあります。このため、一部分割をする場合には、一部分割協議書に「残余の遺産の分割に当っては、一部分割による取得分を考慮しない(又は考慮する)との合意があること。」を明記しておくのがよいでしょう。


「家財を勝手に廃棄した家主に借家人から損害賠償請求 ―家主は未払賃料との相殺不可」

質問

 賃貸人Aは、長期間賃料を不払いにしている賃借人Bに腹が立ち、留守中に家財道具を廃棄して空室にしたところ、Bが多額の損害賠償を請求してきました。Aは、損害賠償義務をBの未払賃料債務と相殺することができますか。

回答

 賃貸人Aが、賃借人Bの留守中に無断で貸室内に入って家財道具を廃棄処分する行為(自力救済)は、民法上の不法行為(民法709条)及び債務不履行(同415条)に該当するのみならず、Bの承諾なく貸室内に入ったことにつき住居侵入罪(刑法130条)、Bの家財道具を廃棄したことにつき器物損壊罪(同261条)、及び貸室の実行支配を回復したことにつき不動産侵奪罪(同235条の2)という、刑法上の犯罪に該当する重大な違法行為です。

 従って、Aは、これによってBに与えた損害を賠償しなければなりません。損害賠償の範囲は、(1)Bが貸室を使用できなくなったことによる賃料相当額、(2)廃棄された動産の時価相当額、及び(3)他に同程度の住居を借りるについての礼金、手数料、一定期間の賃料額等が含まれます。

 AのBに対する損害賠償債務と、BのAに対する未払賃料債務を対当額にて相殺できるかについては、民法は、不法行為により生じた損害賠償債務については、同債務者から相殺をすることはできないと規定しています(民法509条)。従って、賃貸人Aは、賃借人BがAに対して不法行為にもとづいて損害賠償を請求してきた場合には、その損害賠償額と未払賃料を相殺することができないため、AはBに対して損害賠償金を支払わなければなりません。

 このように、賃貸人は、自力救済行為に出ても何ら得することはないので、賃料不払による契約解除→貸室の明渡請求→強制執行という手順をとることが賢明です。

(弁護士 長島佑享)