「誓約書、死後も有効?—相続人全員の承諾必要」
質問
Xは「長男Aに甲土地を、次男Bに乙土地を、長女Cに丙土地をそれぞれ相続させる。遺言執行者としてAを指定する」との遺言を残して死亡しました。ただ、XABCは、Xの存命中に、連名で「父Xの面倒はAが生涯みます。Xの預貯金はAに一任します」との誓約書を交わしています。この場合、亡父Xの預貯金について、Aは金融機関から単独で払戻しを受けられますか。
回答
Aは、亡Xの預貯金を金融機関から単独で払い戻しを受けることはできません。その理由は、以下のとおりです。
(1)Xの遺言は、子ABCにそれぞれ 特定の土地を相続させる遺言であり、上記土地以外の財産については、遺言書に一切記載がありません。従って、亡Xの預貯金は、遺言対象外であり、相続人全員の共有財産ですから、Aは遺言に基づいて預貯金の払戻しを受けることはできません。Aが単独で払戻しを受けるためには、相続人全員にて亡Xの預貯 金について遺産分割協議を行い、預貯金をAが相続取得する旨の承諾を得ることが必要です。
(2)Xの遺言により、Aは遺言執行者に指定されていますが、遺言執行者は遺言を執行するのに必要な行為をする権限を有するだけで(民法1014条)、遺言の対象外の財産については、遺言執行者としての権限を行使することはできません。従って、Aは遺言執行者として亡Xの預貯金を払戻すことはできません。
(3)誓約書に「Xの預貯金はAに一任します」と記載されていますが、誓約書でXがAに一任したのは、Xの存命中における預貯金の払戻しについてであって、X死亡後の相続預貯金の払戻しについてまでAに一任する意思であったとは通常考えられません。また、誓約書には遺言としての効力は認められないため、誓約書で死後の財産に関する処分権をAに与えることもできません。
「賃借人が更新契約書の作成を拒否—契約書なくとも法定更新により有効」
質問
アパート経営をしています。賃借人の一人が、期間は満了しているのに更新契約書に調印しないまま、建物に居住し続けています。このまま賃借人が更新契約書の作成に応じないと、賃貸借契約はどうなりますか。
回答
建物賃貸借契約においては、期間が満了したのに賃借人が更新契約書の作成に応じなかったとしても、賃貸人が賃借人に建物の明渡しを求める正当な事由がない限り、賃貸借契約は法律上当然に更新(法定更新)されることになります(借地借家法26条)。そして賃貸人に建物の明渡しを求める正当な事由が認められることは極めて難しいことであるため、建物賃貸借契約の大部分は法定更新されることになるでしょう。
法定更新後の契約期間は、法律により期間の定めのないものとなりますが(同条但書)、それ以外の契約内容は従前の契約と同一となります。従って、賃料について言えば、更新前の賃料額がそのまま更新後の賃料額となります。
ただし、更新前に結んだ特約が、法定更新後もそのまま適用されるか若干問題となるケースがあります。たとえば、「更新する際には更新料を支払う」という特約は、合意更新の場合だけでなく、法定更新の場合にも適用されるか(判例 は結論が分かれています)、公正証書等の債務名義の効力は更新後の賃貸借にも及ぶか(判例は否定するもの多数)などです。
このように、更新契約書が作成されなくても、賃貸借契約は法定更新されますが、更新後の契約内容を証拠上明らかにする書面がないことになるため、従前の契約書等を保存しておくことが大切になります。