「別居中の有責配偶者から生活費を請求される—少なくとも養育費分は支払義務あり」
質問
私は妻子と別居中です。子は未成年です。妻は私に別居期間中の月々の生活費を要求しています。別居の原因は妻の不貞なので支払いたくはありません。
回答
別居中の夫婦は、資産・収入等に応じて通常の社会生活を維持するのに必要な費用である婚姻費用(夫婦や未成熟子の衣食住費、医療費、未成熟子の養育費、教育費、相当の交際費等)の分担について、取り決めをしなければなりません。これは夫婦の扶助義務を根拠とします。婚姻費用は収入の多い配偶者から収入の少ない配偶者に支払われ、その額を話合いで決められない場合は、家庭裁判所の調停又は審判により決定されます。その際には、夫婦の資産、収入、支出等一切の事情が考慮されますが、具体的には家庭裁判所が支持する婚姻費用算定表に基づく額を基準にして決定されます(民法752条、760条)。
婚姻費用は生活費の問題ですから、その分担は簡易迅速に決すべきであり、不貞等の離婚原因の有無については本来離婚事件のなかで解明されるべきことです。しかし、判例では、別居ないし夫婦関係の破綻について専ら又は主たる責任がある配偶者からの婚姻費用分担の請求であっても、信義則あるいは権利濫用の見地から、子の生活費に関わる部分(養育費)に限って認められると判断したものがあります(大阪高裁決定平28.3.17)。
従って、婚姻費用には未成年の子の養育費も含まれるので、不貞等夫婦間の事情のみを理由に全く支払わないということはできませんが、別居に至った原因が専ら又は主として妻の不貞にあることをあなたが立証できるのであれば、その全額を負担しなくてもよい可能性はあります。
「読みづらい氏と名を変更したい—まず通称を定着させて」
質問
私の氏名は、読みづらい漢字で、姓名判断でも大凶と言われ、将来悪い事が起きるのではないかと不安です。氏も名も、読み方は変えずに、画数の良い漢字に変えたいのですが、可能でしょうか。
回答
姓名判断の結果だけでは戸籍上の氏名を変更する理由にはならず、難しいでしょう。氏(うじ)を変更するには「やむを得ない事由」(戸籍法107条1項)、名を変更するには「正当な事由」(戸籍法107条の2)が必要です。名は氏と共に人の同一性を確定する機能を有し、自由に氏名の変更を認めては社会秩序が混乱するからです。
ただし、戸籍上の氏名を使用すると、その人の社会生活に著しい支障を来たし、その継続を強いることが社会的に見て不当であると判断される場合には、私益(この氏名は嫌だという気持ち)を公益(社会秩序の安定性)に優先させて変更することが許されます。戸籍法の定める「やむを得ない事由」、「正当な事由」はこのような意味であり、ハードルは高いです(参考、東京家裁昭和35年1月19日審判)。あなたにとって、氏名変更の「やむを得ない事由」「正当な事由」はありますか。氏名の漢字を変更することがあなたにとって社会生活上必要不可欠であり、変更しないとあなたの社会生活に著しい支障を来たす状況ですか。大凶で気分が悪い、不安だ等の感情は戸籍法上の改氏改名の理由になりません。ただ、裁判所は氏名の持つ個人特定性と社会生活上の安定性を重視しますから、例えば新しい氏名を通称として30年程使用し続け、あなたの名前として社会に定着させた後であれば、変更が認められる可能性はあるでしょう。
(弁護士 長島佑享)