JA埼玉みずほ

金融機関コード 4859

法律相談

「法定相続分の預貯金を払い戻したい—原則相続人全員の請求で」

質問

母が亡くなり、遺産は不動産のほか預貯金1000万円があります。相続人は長男の私と弟、妹の3人ですが、もめていて遺産分割ができません。金融機関から私の法定相続分である預貯金の3分の1相当額を払い出してもらうことはできますか。

回答

 従来、被相続人名義の預貯金については、相続の開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることから、共同相続人は、自己に帰属した分を単独で行使することができると解されていました(最高裁平成16年4月20日判決)。このため、あなたは、以前においては、相続人間で遺産分割が成立していない状態でも、亡母の預貯金1000万円については、金融機関に法定相続分である3分の1相当額を単独で払戻請求することができました。
しかし、最高裁は平成28年12月19日判決により、「預貯金は相続の開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることなく、遺産分割の対象となる」、と判例変更をしました。この結果、預貯金についても、不動産などと同様に、共同相続人全員の共有(準共有)の相続財産として扱われることとなりました。従って、遺産分割協議が未了の状態においては、原則として、相続人全員の署名、捺印による払戻請求によらなければ払戻しは受けられません。
ただ、前掲の最高裁判決では、被相続人から扶養を受けていた共同相続人の当面の生活費など緊急を要する場合には、保全処分(家事事件手続法200条2項)等を活用して払出しを受ける方法を示唆していますので、そのような場合には弁護士に相談するのがよいでしょう。

「資産管理を長男に託したい—公証役場で二つの契約を」

質問

私は現在78歳で、物忘れも多くなり、認知症など今後の不安を抱いています。私の資産は自宅・預貯金・アパート1棟で、アパートの管理(賃料の収受・老朽箇所の修繕等)は自分でしています。しっかりと物事を判断できるうちに、アパートや預貯金の管理等を長男に託したいと考えていますが、良い方法はありますか?

回答

 あなたはご長男と公証役場で「委任契約及び任意後見契約」を締結すると良いでしょう。
委任契約とは、委任者(あなた)が受任者(ご長男)に財産管理等の法律行為をすることを委託する契約です。
任意後見契約とは、十分な判断能力のある人が、将来判断能力が不十分になった場合に備えて、自身の生活、療養看護及び財産管理の事務について予め公正証書で結んでおく契約で、任意後見人が本人を援助します。任意後見監督人の選任により効力が発生します(任意後見契約に関する法律第2条)。
これら2つの契約を同時に結ぶことで、あなたの判断能力が十分な間は、委任契約に基づいてご長男が財産管理をし、あなたの判断能力が不十分になった場合には、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することにより、委任契約は終了して任意後見契約に移行し、委任契約の受任者であったご長男が任意後見人となってあなたを援助します。なお、任意後見監督人は任意後見人の仕事を監督する役割があるので、法律専門職の第三者が選任されることが多いです。
任意後見契約は、その内容について本人の自己決定権が尊重され、予め、本人が信頼する人を任意後見人に選ぶことができる点でメリットがあります。

 (弁護士 長島佑享)