「養子になると夫や子どもの氏は?—婚姻で定めた子の氏は変わらず」
質問
姉夫婦には子どもがいません。妹の私に養子になるよう勧められています。私が姉夫婦の養子になった場合、夫や子どもの氏はどうなるのでしょうか。
回答
民法810条は、「養子は養親の氏を称する。ただし、婚姻によって氏を改めた者については、婚姻の際に定めた氏を称すべき間は、この限りでない。」と規定しています。
つまり、養子縁組をすると、養子は養親の氏を称することになりますが、婚姻によって氏を改めた夫または妻が養子になる場合には、養親の氏を称することなく、婚姻の際に定めた氏を称することになります。
したがって、姉夫婦の養子になるあなたが戸籍筆頭者、つまり婚姻した際にあなたの氏を夫婦の氏と定めた場合には、あなたは養親の氏を称します。夫も夫婦は同じ氏を称することになりますから、筆頭者の氏すなわち養親の氏を称することになります。この場合、あなたと夫は養親の氏により夫婦で一つの新戸籍がつくられます。子どもについては、母親が姉夫婦の養子になっても、子の氏が変わることはありません。父母が除籍した後、子どもだけで一つの戸籍がつくられます。子を父母と同じ氏にしたい場合には、父母の新戸籍に子が改めて入籍する入籍届をすればできます。
つぎに、あなたが戸籍筆頭者ではない場合、つまり婚姻した際にあなたが氏を改めた者であるときは、あなたが姉夫婦の養子になっても、あなたも、夫や子どもも氏が変わることはありません。戸籍簿の妻の欄に「〇〇〇〇の養子となる。」と記載されるだけです。
借地の一部が崩壊、修繕費は?—多額なら「社会的履行不能」
質問
私は82歳の独り暮らしです。先日発生した水害により、借地している住宅の庭先が崩れ落ちてしまい、その修復工事に2百数十万円かかるといわれました。この費用は貸主、借主のどちらが負担するのですか。
回答
自然災害によって借地の一部が崩壊した場合、その修復工事費を貸主、借主のどちらが負担するかは難しい問題です。
貸主は賃貸借契約で約束した貸地面積を借主に使用収益させる義務があります。従って、崩壊によって貸地の一部が使用不能になったときは、貸主は原則として費用を自己負担して修復工事を行い、約束どおりの面積を貸す義務があります。
しかし、例えば、地代が1ヵ月1万円なのに、修復工事に2百数十万円かかるというのでは、貸主に極めて酷な結果となるため、貸主の修復義務は「社会的履行不能」と解され、貸主は修復義務を免れると考えられます。
この場合、借主は自ら業者に依頼して崩壊箇所の修復工事を行うことは可能ですが、かかった費用の全額を貸主に償還請求することはできません。必要最小限度の工事費(事案によって異なりますが、例えば、さらなる崩壊防止のための工事費—必要費)について償還請求ができるだけでしょう。
そして、多額の費用がかかるため崩壊箇所の修復工事を行わない場合には、自然災害という貸主および借主双方の責に帰さない不可抗力によって貸地の一部が使用不能になったのですから、賃貸借契約は一部(使用不能部分)について終了し、以後、借主は、貸主に使用不能面積に相当する地代の減額を請求することができます。
(弁護士 長島佑享)