贈与を受けた相続人が相続放棄 ―他の相続人の減殺請求は可能
質問
父は、次男に財産の大部分を贈与して死亡し、死亡時には目ぼしい財産は残っていませんでした。次男は、父の死亡後に家庭裁判所で相続放棄をしています。この場合、私は弟に遺留分減殺請求することができますか。
回答
父が生前に大部分の財産を次男に贈与したのですから、共同相続人であるあなたの遺留分が侵害されている可能性は極めて高いです。
なぜなら、遺留分は、被相続人が相続開始時に有していた財産の額に、贈与した財産の額を加えたものから債務を控除した額を基礎財産として算定されるからです。
従って、あなたは、弟に遺留分減殺請求をすることができるでしょう。
ただ、弟が相続放棄をすると、弟は初めから相続人ではなかったものとみなされます(民法939条)。そして、被相続人が相続人でない者にした贈与は、(1)相続開始前1年間にした贈与か、(2)それ以前にした贈与については、贈与者、受贈者の双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与でなければ、減殺請求することができません(民法1030条)。
このため、父が次男にした贈与を長男のあなたが減殺請求するためには、その贈与が相続開始前1年間にされたものか、それ以前の贈与ならば父と弟の双方が遺留分を侵害することを知ってした贈与でなければ減殺請求することができません。
なお、弟が相続放棄をしなかった場合には、弟は相続人ですから、上記の制限は適用されず、生計の資本としての贈与であれば何年前にした贈与でも、また、遺留分を侵害することを知らずにした贈与でも、減殺請求することができます。
家主に支払うべき家賃の差し押え ―支払は差押債権者へ
質問
私は建物を借りて住んでいますが、裁判所から家主に支払うべき家賃を差し押える旨の差押命令書が送られてきました。今後、家賃は誰に支払えばよいですか。
回答
賃借人が、賃貸人に支払うべき賃料について、裁判所から差押命令を受けると、以後、賃借人は、賃料を賃貸人に支払うことができなくなります。
これに違反して、賃貸人に賃料を支払っても、弁済の効力は認められず、後日、差押債権者から賃料の取り立てを受けると、賃借人は差押債権者に賃料を支払わなければならず、賃料の二重払いを強いられます。裁判所から賃貸人(差押債務者)に差押命令書が送付されて2週間が経過すると、差押債権者は、賃借人(第三債務者)から直接賃料を取り立てることができます。従って、賃借人は、差押債権者に賃料を支払わなければなりません。
なお、複数の債権者が差押えの申立てを行い、差押えが重複することもあります。その場合には、賃借人は賃料全額を供託しなければなりません。
また、賃貸マンションなどの場合には、賃料のほかに、管理費や共益費を支払うのが通例です。この場合、管理費や共益費にも差し押えの効力が及び、差押債権者に支払わなければならないかは問題です。しかし、管理費や共益費は建物の保守管理などに必要な費用であって、建物を利用する対価たる賃料とは性質が異なるため、差し押えの効力はおよばないと解されます。従って、その場合には、賃料は差押債権者に支払い、管理費や共益費は賃貸人に支払うことになるでしょう。
(弁護士 長島佑享)