相続放棄の念書は有効?―事前放棄なら効力なし
質問
私は、将来子ども達が相続争いしないように、結婚する娘に一定の財産をあげて相続放棄と遺留分放棄の念書を書いてもらうつもりです。そのような念書は法律上有効ですか。
回答
相続の放棄をすると、その相続人は、その相続に関しては、初めから相続人ではなかったことになります(民法939条)。
ただし、相続放棄ができるのは、相続の開始後、つまり被相続人が死亡した後でなければできません(民法915条)。相続の開始前に相続放棄を認めてしまうと、親が権威を利用して一部の子どもに相続放棄を強いるなどの弊害があるからです。
ですから、親のあなたの生存中に娘さんから相続放棄の念書を差し入れてもらっても、その念書は無効です。娘さんは、相続開始後、改めて相続権を主張することができます。 他方、遺留分の放棄については、相続の開始前、つまり被相続人の生存中であっても、当該相続人(娘さん)が家庭裁判所に「家事審判(遺留分放棄の許可)」を申し立て、その許可を受けたときに限り、遺留分を放棄することができます(民法1043条)。裁判所の許可に係らしめることにより、事前放棄の弊害を防止できるからです。
ですから、娘さんが遺留分を放棄する旨の念書を差し入れても、そのような念書は法律上無効です。娘さんは、相続開始後、遺留分を侵害する受遺者に対し、遺留分減殺請求をすることができます。
なお、相続開始後であれば、遺留分権利者(娘さん)は、裁判所の許可を要せず、自由に遺留分を放棄することができます。
前に作成した遺言を取り消したい―新遺言により取り消し可能
質問
私は、次男に勧められて遺言を作成し、遺言書を次男に預けました。しかし、後日よく考えてみると、遺言内容が私の本意でないことに気づきました。遺言を取り消したいのですが、取り消しできますか。
回答
遺言は、遺言者の最終意思に法的効力を認める制度ですから、遺言者は、いつでも、自由に遺言を取り消すことができます。
ここにいう「取り消し」とは、詐欺や強迫による取消とは異なり、何らの理由がなくても、自由に取り消し(撤回)できます。
ただし、遺言を取り消すには、遺言の方式でしなければなりません(民法1022条)。遺言の方式ですればよいので、公正証書遺言を自筆証書遺言で取り消すこともできます。
遺言を取り消すには、次のいずれかの方法でしなければなりません。
- 「私は平成〇年〇月〇日付で作成した遺言を取り消します。」など、前に作成した遺言を取り消す旨の遺言書を作成する。
- 「私は平成〇年〇月〇日付で作成した遺言の全部を取り消したうえ、改めて以下のとおり遺言する。」など、前に作成した遺言を取り消したうえ、新しい遺言書を作成する。
- 前に作成した遺言に抵触する内容の遺言書を作成する。
- もし、前に作成した遺言が自筆証書遺言であれば、同遺言書を次男から取り戻して破棄する。
ただし、公正証書遺言ですと、原本が公証役場に保存されているため、お手元の正本や謄本を破棄しても無効にはなりません。
このように、遺言は極めて重要な法律行為です。間違い防止のため、弁護士等に相談して行うのがよいでしょう。
(弁護士 長島佑享)