老父の老後の身の回りの世話と寄与分ー財産の維持形成に貢献必要
質問
わたしは、父の持ち家で父と同居し、父の老後の身の回りの世話をしてきました。その父が先日亡くなりました。実の娘のわたしに寄与分は認められるのでしょうか。
回答
寄与分とは、共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供(例えば、父の経営する農業に従事してきた)、又は財産上の給付(被相続人の医療費や施設入所費を負担してきた)、被相続人の療養看護(病気療養中の被相続人の療養看護をしてきた)その他の方法(例えば、被相続人を扶養してきた、被相続人の財産管理をしてきた等)により、被相続人の財産の維持又は増加に特別の寄与(通常期待される程度を超える貢献)をした相続人に認められる権利です(民法904条の2)。
寄与分が認められると、自己の相続分のほか、寄与分に相当する財産を取得することができます。 あなたは、父と同居し、父の老後の身の回りの世話をしてきたとのことですが、法律上、同居の親族は、お互いに扶け合う義務があります(民法730条)。
このため、単に老齢の父の身の回りの世話をしたというだけでは、同居の親族としての通常期待される程度の貢献にすぎませんから特別の寄与とはいえず、寄与分を認定してもらうことは困難でしょう。
しかし、身の回りの世話をしたというその中身が、病気療養中の父の療養看護をしてきたということであれば、寄与分が認められる可能性が出てきます。
そこで、寄与分が認められる療養看護といえるためには、被相続人が自ら費用負担で看護人を雇わなければならないはずのところ、あなたが療養看護をした結果、被相続人が支払うべき看護費用の支出を免れることができたという、原因・結果の関係が必要と解されています。
したがって、あなたが父の療養看護をしたことについて寄与分を主張するためには、以下の要件を満たすことが必要となります。
- まず、被相続人が療養看護を必要とする病状であったこと、及び、近親者による療養看護を必要としていること、の両方が必要です。したがって、病状が重篤であっても、完全看護の病院に入院している場合には、基本的に寄与分は認められないことになります。
- 被相続人との身分関係(例えば、親と子の関係など)に基づいて、通常期待される程度を超える貢献をすることが必要です。したがって、被相続人の病状の程度及び療養看護の期間が問題になってくるでしょう。
- 療養看護が無報酬又はこれに近い状態で行われることが必要です。通常の介護報酬と比較して著しく少額である場合には、この無償性の要件を満たしているといえます。しかし、寄与行為(療養看護)の対価として、被相続人から金品を渡されている場合には無償性の要件を欠くこととなり、寄与分は認められません。
- 療養看護が相当期間に及んでいること。実務上は、1年以上を必要としている場合が多いようです。
- 療養看護の内容が片手間なものではなく、かなりの負担を要するものであること。ただ、「専業」や「専念」ということまでは要求されていません。
- 寄与行為(療養看護)により、被相続人の財産を維持又は増加させることができたという、結果が必要です。つまり、あなたが療養看護をした結果、父(被相続人)が職業看護人に支払うべき介護報酬等の看護費用の出費を免れることができた、という因果関係が認められるものでなければなりません。
近年、介護保険制度の導入により、高齢者の中には介護保険により様々な介護サービスを受けている人もいます。その場合には、近親者の負担が一定程度軽減されることから、寄与行為(療養看護)と被相続人の財産の維持又は増加との因果関係が否定され、寄与分が認められないケースが増えています。
以上により、あなたが行った父の身の回りの世話(寄与行為)が上記(1)ないし(6)の要件を満たすものであれば、寄与分を認めてもらうことができるでしょう。
(弁護士 長島佑享)