いわゆる宅地並み課税により固定資産税等の額が増加したことを理由とする小作料の増額請求の可否
質問
私はBさんに農地を賃貸し、毎年、農業委員会が定める標準額に従って小作料を受領しています。しかし、市街化区域内の農地であるため、いわゆる宅地並み課税により、固定資産税等が小作料より約6倍高いため小作料を増額したいのですが、増額請求は可能でしょうか。なお、生産緑地の指定を受けられなかったのは、Bさんが承諾しなかったからです。
回答
市街化区域内の農地の所有者が、いわゆる宅地並み課税により、固定資産税・都市計画税が増税されたことを理由として、賃借人に小作料の増額を請求できるかどうかについては問題があります。
「宅地並み課税」とは、市街化区域内の農地に対する固定資産税等の額を、周辺の類似宅地の課税標準に比準する価格をもとに算出する制度です。宅地並み課税により、固定資産税等の額が、小作料の額を大幅に上回るいわゆる「逆ざや現象」が生じます。
ただ、小作地について「生産緑地」の指定を受けた場合には、宅地並み課税の対象外となりますが、生産緑地の指定を受けるためには、賃貸人の同意が必要です。このため、生産緑地の指定を受けることに賃借人が同意せず、小作料の増額にも応じない、という事態が生じるのです。
そこで、生産緑地の指定を受けられなかった賃貸人が賃借人に小作料の増額を請求できるかどうかが問題になりますが、この点につき、最高裁は、平成13年3月28日判決(大法廷)により、「小作地に対して宅地並み課税がされたことによって固定資産税等の額が増加したことを理由として、小作料の増額を請求することはできない。」と判示し、賃借人に対する増額請求を否定しました。その理由としては、「農地法は通常の農業経営が行われた場合の収益を基準として小作料の額を定めるべきものとしていること、宅地並み課税による税負担は、値上り益を享受する農地所有者が資産維持のための経費として担うべきであること、土地所有者が生産緑地の指定を受けるに当たり、賃借人がこれに同意すべき信義則上の義務はないと解されること」(要旨)としています。
しかし、この判決で注目すべきことは、小作料の増額請求を否定した裁判官の多数意見が「農地所有者が宅地並み課税によって被る不利益は、当該農地の賃貸借契約を解約し、これを宅地に転用した上、宅地として利用して相応の収益を挙げることによって解消することが予定されているのであり、逆ざや現象が生じていること自体が知事による解約許可事由(農地法18条2項五号の「その他正当の事由がある場合」)に該当すると解することができ、具体的事案に応じた適正な離作料の支払いを条件として、解約を申し入れることができる」(要旨)としていることです。
つまり、多数意見は、小作料の増額請求については否定したが、逆ざや現象を正当な法律状態であるとするものではなく、逆ざや現象が生じていること自体を解約の正当事由として賃貸借関係の解消を示唆しています。そして、離作料については、賃借人の使用がもともと農地としての利用に限定されていることが考慮されるべきであって、世上見掛ける高額の離作料は、適正な離作料といえるものではないことを当然の前提としていると解されています。
したがって、あなたは、知事に対して賃貸借契約解除許可申請を行い、その許可を得て賃借人Bとの農地賃貸借契約を解除することにより、逆ざや現象により被る不利益の解消を図るべきでしょう。
(弁護士 長島佑享)