貸地に長年放置されている家を取り壊したい 相続人を探し出し土地明渡し請求をする
質問
私は50年前にBさんに土地を貸しました。Bさんは住宅を建てて住んでいましたが、10年程前に死亡しました。死亡後は借地料の支払はなく、家も空家のため老朽化が進んでいます。相続人がいるかどうかも不明です。家を取り壊して土地を使いたいのですが、私が取り壊しても問題ないでしょうか。
回答
あなたは、土地の所有者兼貸し主ですから、Bさんの相続人に対して、土地賃貸借契約を解除したうえ、建物を取り壊して土地を明け渡すよう請求することができます。
Bさんが死亡すると、貸地上の建物と土地賃借権は、相続によりBさんの相続人の所有となりますから、借地料の支払がなかったとしても、あなたが勝手に貸地上の建物を取り壊すことはできません(自力救済の禁止)。
あなたは、Bさんの相続人に対して、債務不履行(賃料の支払がないこと)を理由として、土地賃貸借契約を解除したうえ、建物を取り壊して土地を明け渡すよう請求することができるだけです。ですから、あなたが建物を取り壊して土地を利用するためには、Bさんの相続人を探し出して、その相続人との間で土地明渡交渉を行うことが必要です。
Bさんの相続人と話合いで解決できれば問題ありませんが、解決できない場合には、裁判所にBさんの相続人を相手方(被告)にして「建物収去土地明渡請求訴訟」を起こし、その勝訴判決に基づいて、強制執行手続きにより建物を取り壊して土地の明け渡しを実現することになります。
Bさんの相続人は不明とのことですが、その場合には、Bさんの相続人を探し出すことが必要です。相続人調査の方法としては、まず、法務局(登記所)に出向いて、あなたが貸した土地上にある建物が登記(保存登記)されているかどうかを調査します。そして登記がなされていれば、その登記簿に記載してある所有者(Bさん)の住所をもとに、市町村役場に出向いて、事情を話し、Bさんの住民票、戸籍謄本類を順次取り寄せて、Bさんの相続人、つまり現在の建物所有者を探し出していくことになります。相続人が複数いる場合には、相続人全員を相手方にして明渡交渉ないしは訴訟をすることになります。
建物の登記がない場合、つまり未登記建物であれば、その建物が所在する市町村役場に出向いて、事情を話し、建物の評価証明書を取り寄せます。そして評価証明書に記載されている所有者(Bさん)の住所をもとに、Bさんの住民票、戸籍謄本類を順次取り寄せて、相続人つまり現在の建物所有者を探し出すことになります。
相続人調査を行った結果、Bさんに相続人のいないこと(相続人不存在)が判明した場合には、家庭裁判所に「相続財産管理人選任の申立て」を行い、そして裁判所から選任された相続財産管理人と土地明渡交渉を行います。相続財産管理人が明渡しに応じてくれれば問題ありませんが、明渡しに応じないときは、相続財産管理人を被告として、裁判所に「建物収去土地明渡請求訴訟」を起こし、その判決に基づいて、強制執行手続きにより建物を取り壊して土地の明渡しを実現することになります。
建物を取り壊すには、取り壊し費用がかかります。Bさんの相続人に資力があれば、その費用をその相続人に負担させることは可能です。しかし相続人に資力がない、あるいは相続財産管理人を相手方にして明渡交渉ないしは訴訟をする場合には、土地所有者のあなたが建物取壊し費用を負担せざるを得ないことになるでしょう。
(弁護士 長島佑享)