農地賃借人が耕作放棄知事の許可得て返還請求
質問
父から相続した畑には、Aさんの賃借権(小作権)がついています。Aさんは6~7年前まで耕作していましたが、その後は耕作せず、雑草が人の背丈ほど繁茂しています。返還を求めましたが、拒否されました。Aさんから畑を返してもらうことはできないでしょうか。
回答
農業委員会から農地法3条の許可を受けて賃貸した農地を賃借人から返還してもらうためには、知事の許可を受けて農地賃貸借契約を解除することが必要です(農地法18条1項)。
その場合、知事は、(1)賃借人が信義に反した行為をした場合、(2)その農地を農地以外のものにすることを相当とする場合、(3)賃借人の生計・賃貸人の経営能力等を考慮し、賃借人がその農地を耕作に供することを相当とする場合、(4)その他正当の事由がある場合には、農地賃貸借契約の解除を許可してくれます(同条2項)。
Aさんは6、7年前から賃借農地を耕作せず、管理もしていないというのですから、たとえ賃借料を支払いあるいは供託をしているとしても、特段の事由がないかぎり、(1)賃借人が信義に反した行為をした場合にあたると考えられます(大阪地裁1975年4月28日判決)。
従って、あなたは知事(窓口は農業委員会です)に対して、「農地賃貸借契約解除許可申請」をするとよいでしょう。
そうすれば、農業委員会において賃貸人・賃借人双方より事情聴取、現地調査等を行ったうえ、最終的には知事が許可または不許可の決定をします。
そして知事から許可が下りたならば、あなたはAさんに対して農地賃貸借契約を解除する旨の解除通知を出して、農地の返還を求めることになります。
それでもAさんが返還に応じないときは、「農地返還請求訴訟」等の法的手続きを講じて農地の返還を求めることになります。法的手続きになっても、すでに賃貸借契約の解除については知事の許可を得ているのですから、裁判において返還請求が認められないということはまずないと考えられます。
もっとも、あなたが賃借人と円満に解決を図りたい場合には、知事に賃貸借契約解除許可申請をする以前に、農業委員会に「和解の仲介」(農地法25条)の申し立て、または地方裁判所に「農事調停」(民事調停法25条)の申し立てをして、和解ないし調停により解決を図る方法もあります。ただ、これらの方法はいずれも強制力はありませんので、賃貸人・賃借人双方の合意が成立しないかぎり、解決することはできません。
つぎに、あなたの契約解除許可申請を知事が不許可にした場合には、あなたは農政局長に対して審査請求をすることができます(行政不服審査法6条)。そして農政局長が審査請求を棄却したときは、知事を相手方(被告)にして農地賃貸借契約解除の許可を求める行政訴訟を提起して、訴訟により知事に許可を求めていく以外に方法はありません。
(弁護士 長島佑享)