内縁の妻に財産を相続させたい ─遺言などで対応
質問
妻とは事実婚です。子どもは2人です。わたしの遺産相続の際、妻に配偶者として財産を相続させることはできるでしょうか。
回答
事実婚(婚姻届は出していないが、事実上夫婦として共同生活をしていること。内縁と同じ)は法律上の夫婦ではないために、配偶者としての相続権は認められません。ですから、あなたが亡くなった場合、内縁の妻にあなたの財産を相続させることはできません。
内縁の妻が相続以外で内縁の夫の財産を取得する方法としては、婚姻関係を解消(離婚など)する際の「財産分与」(民法768条の類推適用)が考えられます。
しかし、判例は、内縁の夫の生存中であれば、内縁関係を解消する際に、内縁の夫に対して財産分与の請求ができることを認めています(広島高裁松江支部昭和40年11月15日決定)が、内縁の夫が死亡した場合には、内縁の夫の相続人に対して財産分与を請求することはできないとしています(最高裁平成12年3月10日判決)。
したがって、内縁の妻は、内縁の夫が死亡してしまうと、財産分与に基づいて財産を取得することもできません。
そのため、内縁の夫が内縁の妻に財産を取得させる方法としては、
(1)内縁の夫が妻に財産を遺贈する内容の遺言書を作成するか、
(2)内縁の妻と「死因贈与契約」を結んでおくか(贈与者が死亡した時に贈与の効果が発生する。贈与税ではなく、相続税でよい)、
(3)生前にあらかじめ贈与税の対象にならない額を、少しずつ名義変更するか、
などの方法を講ずる以外にないでしょう。ただし、不動産を遺贈し、あるいは死因贈与する場合には、相続人の協力(登記義務者として登記申請に協力してもらう)を得ないと、内縁の妻名義に登記することができないので注意が必要です。
このように、事実婚(内縁)には配偶者としての相続権は認められません。しかし、相続以外のこと、例えば夫婦として同居し、互いに協力し扶助する義務(民法752条)、夫婦として婚姻費用を分担する義務(同760条)、内縁関係を不当に破棄した場合における損害賠償義務、内縁関係を解消した場合における財産分与請求権、遺族補償金や遺族補償年金の受給権、厚生年金や健康保険の受給権などについては、婚姻届を出した法律上の夫婦と同様の権利義務が認められています。
(弁護士 長島佑享)