遺産分割協議書は本人が署名し、実印を押印しないといけませんか?
質問
父が亡くなって半年が過ぎました(母は父より前に亡くなっています)。兄妹姉妹間でもめていた遺産分割についても、ようやく話合いの目途がつきました。遺産分割協議書を作成したほうがよいでしょうか?その場合、分割協議書には本人に署名押印してもらうことが必要ですか?
回答
父親が亡くなって相続が開始されると、遺言書がないかぎり、共同相続人(子ども)である兄弟姉妹全員で話合いをして(全員が一同に会して話合いする必要はありません)、誰がどの財産を取得するかを決めなければなりません。この話合いのことを、「遺産分割協議」といいます。
遺産分割協議は、何日までにしなければならないという法律上の決まりはありませんが、相続税の申告納付期限である相続開始時(死亡)から10ヵ月以内に成立(合意)させることが望ましいでしょう。
遺産分割協議をしても共同相続人全員の合意が得られない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停または審判の申し立てをして、その裁判手続きの中で遺産の分割を決めてもらう以外に方法はありません。
しかし、話合いにより遺産分割の合意が得られた場合には、「遺産分割協議書」を作成するべきです。遺産分割協議書は、法律上必ず作成しなければならないものではありませんが、合意した内容について、後日疑義が生じて再度相続人間で粉糾しないように、これを書面にして明確化しておくことが大切だからです。
特に遺産分割の話合いでは、各相続人がそれぞれの立場から様々の権利主張をしてきますし、そのために相続人相互間に利害の対立や、感情的な対立の生じることが多く見受けられます。合意成立に至る場合でも、相続人の中には、必ずしも全面的に納得したわけではなく、不満を抱きながらも、やむなく合意するというケースもあります。
そのような場合には、一旦遺産分割協議が成立したとしても、後日、意を翻して「自分は協議書にサインしていないし、中身も知らない。」「話合いした時の内容と、中身が違う。」「長兄にだまされた。」などと、遺産分割の無効を主張してくるケースがよくあるのです。
したがって、話合いにより遺産分割の合意が成立した場合には、すみやかに、遺産分割協議書を作成することが大切です。遺産分割協議書には、共同相続人の全員が、それぞれ署名(自分の名前を書くこと)して、押印することが必要です。この場合、署名は、他人が代筆(記名)することもできますが(有効)、可能なかぎり、相続人本人に自書(サイン)してもらい、かつ実印(登録印鑑)を押印の上、印鑑証明書を添付してもらうようにします。自分の名前を書くことのできない相続人については、本人に合意内容を十分説明して、その確認を得た上で、他人に代筆してもらうこともやむを得ないでしょう。
(弁護士 長島佑享)