相続人の中に認知症や行方不明者がいる場合の遺産分割協議の仕方
質問
父が亡くなり、相続人は母と子であるわたしたち兄弟姉妹4人です。母は現在、認知症で老人施設に入所しています。次男は独身で家出してから10年以上も音信がありません。相続手続きを進めたいのですが、このような場合、遺産分割はどのようにしたらよいでしょうか。
回答
亡き父の遺産を分けるためには、相続人全員で協議し、合意ができたら遺産分割協議書を作成し、各自がそれに署名押印します。
ですから、相続人の中に行方不明者がいると、遺産分割協議をすることができません。また、相続人の中に認知症などで判断能力の著しくて低下している者がいると、その者と分割協議をしても、完全に有効な遺産分割を成立させることはできません。
そこで、このような場合に有効な遺産分割を成立させるためには、子であるあなたが次の手続きをとることが必要です。
まず、行方不明で容易に帰ってくる見込みのない者を「不在者」といいます。不在者の中には、生死が不明である場合と、生存していることは分かるが所在を確認することのできない場合、とがあります。
生死が7年以上不明の不在者については、利害関係人が家庭裁判所に申立てして「失踪宣言」を出してもらうことができます。失踪宣言が出ると、その者は死亡したものとみなされます。ですから、次男と7年以上音信がなく、かつ生死不明の状態が続いていれば、あなたがた(一人でもよい)から家庭裁判所に申立てして失踪宣言を出してもらうのがよいでしょう。そうすれば、次男は死亡したものとして扱うことができますから、他の相続人だけで有効な遺産分割を成立させることができます。
次男が生存していることは分かるものの、その所在を確認することのできない場合は、あなたがたが家庭裁判所に不在者(次男)の「財産管理人」の選任の申立てをします。そして、選任された次男の財産管理人と遺産分割協議を行うことにより、有効な遺産分割を成立させることができます。
次に、母親が認知症により常に判断能力を欠く状況にある場合は、あなたがたが家庭裁判所に「後見開始の審判」の申立てをして、成年後見人を選任してもらいます。成年後見人には、子であるあなたがたの中から選任してもらうことも可能です。
成年後見人は、成年被後見人つまり母親の財産の管理や処分等を本人に代って行うことができます。したがって、遺産分割についても、母親の成年後見人と協議することにより、有効な遺産分割を成立させることができます。
ただ、成年後見人があなたがたの中から選任された場合は、母親と子であるあなたがたとは利害が相反する関係になるため、母親の成年後見人として遺産分割協議に加わることはできません。ですから、その場合は、成年後見人が家庭裁判所に「特別代理人」選任の申立てをして、母親の特別代理人を選任してもらうことが必要です。そして、選任された特別代理人と遺産分割協議をすることにより、有効な遺産分割を成立させることができます。
(弁護士 長島佑享)