亡き父の家屋に長男夫婦が居すわるー長男夫婦に立退き請求は可能ですか
質問
昨年、父が亡くなり、相続人は長男、次男、長女であるわたしの3人です。長男夫婦は、父の家屋に父と同居していましたので、父が亡くなった後も、引き続き父名義の家屋に居住しています。次男とわたしは、長男に遺産分割協議を求めているのですが、一向に応じてもらえず困っています。次男やわたしは、長男夫婦に家屋の明渡を請求できますか。また、家屋を長男が使用していることについて、賃料の支払を請求できますか。
回答
被相続人(父)が亡くなると、被相続人の遺産(家屋)は、共同相続人であるあなたたち兄弟姉妹3人の共有財産となります(民法898条)。
そして共有財産については、各相続人が、それぞれの持分(相続分。このケースでは3分の1ずつとなります。)に応じてこれを使用し、収益を受ける権利が発生します(民法899条)。
しかし、被相続人(父)が亡くなる前から被相続人と同居していた相続人(長男)は、被相続人が亡くなった後も、遺産分割が成立するまでは、引き続き父の遺産である家屋を無償で使用することができる(「使用賃借」といいます。民法593条)との合意が被相続人(父)と長男との間に成立しているものと推定されます(最判平成8・12・17)。
したがって、あなたや次男は、長男夫婦に対して、家屋の明渡(立退き)を請求することはできません。
ただ、たとえば長男夫婦が父親の病気入院中に無断で入居したような場合には、父親が長男に家屋を無償使用させることを承諾していたと認めることは困難ですから、そのような場合には、長男夫婦に家屋の明渡(立退き)を請求することができるでしょう。
たしかに、あなたや次男の立場からすると、自分たちは父の遺産である家屋から何ら収益を受けていないのに対し、長男だけがこれを無償使用して利得しているのは不公平だ、ということになります。
しかし、父所有の家屋に長男が同居することを父親が承諾していた(使用賃借)ことが推定される以上、父亡き後も、遺産分割が成立するまでの期間は、あなたや次男は長男に賃料ないし賃料相当損害金の支払を請求することはできないことになります。
ただ、同居の相続人である長男がその家屋の管理に要した修繕費や公租公課(固定資産税など)については、家屋使用賃借の借主が負担すべき「必要費」として、長男が負担すべきものと解されています(民法595条)。
父の遺産である家屋を誰が取得するかは、共同相続人であるあなたたち3人による遺産分割協議により決まります。そして共同相続人間で遺産分割の協議ができない場合には、家庭裁判所に遺産分割の調停の申立をするか、遺産分割の審判の申立をすることにより、遺産分割を行うことができます(民法907条)。
(弁護士 長島佑享)