JA埼玉みずほ

金融機関コード 4859

法律相談

多重債務を負う相続人の相続放棄—破産宣告なければ有効

質問

 先月、父が亡くなりました。相続人は私と弟ですが、弟は金融業者から多額の借金があり、返済するのは不可能な状態です。このような場合、弟が相続放棄をしても、問題ないでしょうか。

回答

 相続の放棄は、相続人が、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、その旨を家庭裁判所に申述しなければなりません。

 弟が多額の借金を抱えて返済不可能な場合、債権者は弟が亡父の遺産を相続することを期待していますから、相続放棄をすると債権者は期待を裏切られることになります。 そこで、弟が相続放棄をした場合、これを詐害行為(債権者を害する行為)として債権者において取り消すことができるかどうかが問題となります。

 判例は、相続の放棄は詐害行為取消権(民法424条)の対象にはならないとしています(最判昭49・9・20)。相続放棄のような身分行為については、他人の意思によってこれを強制すべきではないからです。ですから、弟が相棄放棄をしても、格別、問題となることはありません。

 ただし、父が死亡した後、弟が相続放棄をする前に破産宣告を受けた場合には、弟は相続放棄をすることはできません。破産手続きが開始すると、破産者の財産処分権は破産管財人に移り、弟は亡父の遺産について処分権を失うからです。

 しかし、弟が相続放棄をした後に破産宣告を受けた場合には、その相続放棄は有効です。また、弟が破産宣告を受けた後に父が死亡した場合には、弟は相続することも、相続放棄をすることも自由にでき、破産の影響を受けることはありません。


音信不通の妻子なき叔父の借金誰が相続?3か月以内に相続放棄を

質問

 先日、貸金業者から「私の叔父(亡母の弟)が死亡したので、叔父に貸した貸付金を私が返済せよ」との請求書が届きました。叔父とは20年以上音信がなく、戸籍を調べたら1年前に死亡し、妻子もいないことが分かりました。姪(めい)の私は、叔父の借金を返済しなければなりませんか。

回答

 死亡した叔父に妻子がなく、叔父の両親も死亡している場合には、叔父の兄弟姉妹が相続人となります。叔父の兄弟姉妹もすでに死亡していれば、その子どもつまりおい・めいが代襲相続人として叔父の財産および債務を相続します(民法887条2項)。

 したがって、あなたが叔父の借金を相続しないためには、相続放棄の手続きをとることが必要です(民法938条)。相続放棄の手続きは、相続人が、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に被相続人(叔父)の最後の住所を管轄する家庭裁判所に「相続放棄申述書」等の必要書類を提出します。裁判所は審査のうえ受理すれば「相続放棄申述受理証明書」を発行してくれます。この相続放棄受理証明書を貸金業者に提示すれば、以後、業者から叔父の借金の返済を請求されることはありません。

 叔父は1年前に死亡していたとのことですが、あなたが相続の開始、つまり叔父の死亡を初めて知ったのは貸金業者から請求書を受け取った時です。ですから、あなたが叔父の借金を相続しないためには、あなたが貸金業者から請求書を受け取った日の翌日から起算して3か月以内に相続放棄の手続きをとることが必要です。

(弁護士 長島佑享)